原因を理解し、自分の心の習性を知る

 悲しみを受け入れるということは、「起きてしまったことは、もう取りかえしがつかない」、「自分にはどうしようもないことだ、仕方がない」というように、ただ諦めることとは違います。

悲しみを感じたときに受け入れるべきなのは、私たちの心の習性です。受け入れるということは、執着と欲望が悲しみの原因だという事実を理解し、間違った認識に気づくことにほかなりません。そのことさえ受け入れられれば、誰かを受け入れたり、何かを受け入れる努力は必要ありません。

 『バガヴァッド・ギーター』を読んだことがある人は、主人公のアルジュナが、物語の冒頭で悲しみに打ちひしがれる場面をご存知でしょう。

 アルジュナは、王国を奪還するためにクルクシェートラの戦いに臨みますが、敵軍に大勢の親族や友人、さらには自分の師匠がいるのを見て悲嘆にくれます。手足は重く、口は干乾び、身体は震えて、立っていることすらままなりません。そして、ついには武器を捨てて座りこんでしまいます。

 この部分だけを読むと、アルジュナはずいぶん気弱な武将に感じられますが、実は『バガヴァッド・ギーター』よりも前のエピソードで、アルジュナは、強さにおいても、賢さにおいても、並ぶもののいない英雄として描かれています。美しく、家柄もよく、人間が手に入れたいと思うものをすべて兼ね備えた、成功者なのです。そんなアルジュナですら、深い悲しみにとらわれて自分を見失ってしまうのですから、凡人ならなおさらです。

 母親が出産の苦しみを経験してもすぐに忘れるように、私たちの心は、ひとつの苦しみを乗り越えると、すぐにその記憶を消してしまうようにできています。問題は、苦しみと一緒に、気づきも忘れてしまうことです。それが、同じ苦しみを何度も味わうことになる理由です。ですから、識別する能力(ヴィヴェーカ)を何度も心に呼び起こして、悲しみの誤解をとき、苦しみを手放してあげることを意識しながら過ごしましょう。

(次回は2月21日更新予定です。)


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