「共創力のあるビジネスパーソン」への期待

――デザインとテクノロジーの境界線が曖昧になっている中、新学科ではテクノロジーをどのように取り扱っていますか。

 テクノロジーを自ら駆使する必要はありませんが、共創のツールとして使いこなせるようになってほしいと考えています。そのために学んでほしいことは二つです。一つはテクノロジー寄りの人の思考を理解すること。デザイナーは感覚を優先しがちですが、エンジニアはマイナス要因をつぶしながらエビデンスを積み重ねて思考します。すると、ロジカルだけど否定的な言葉遣いになりやすい。こうした思考や言葉の癖を理解して共創できるようになってほしいのです。もう一つは、技術動向全体の広い理解です。素晴らしい着想があっても、それを支えるテクノロジーがなければビジネスとして成立しませんから。

――あくまで共創の手段として使いこなすことを目指すのですね。逆に、デザイナーらしい「絵を描く力」は必須ではないのでしょうか。

 デザインの理論も実技も一通りやるので、卒業までに絵を描くスキルもちゃんと身につきます。ただ、こちらも重視するのは描画の巧拙ではなく、伝達手段、表現手段として活用できるかどうかです。描画や造形のスキルを窮めるより、それらを窮めたプロフェッショナルと共創できる人になってほしい。造形プロセスの手前の、ビジネスやサービスの仕組みを作れる人になってほしいと思っています。

 ですから卒業後の職種も、グラフィックやプロダクトのデザイナーだけでなく、UX/UIデザイナー、サービスデザイナー、ビジネスデザイナーなどが射程に入ってきますし、さらには「デザイナー」という肩書が付かない総合職として活躍する人も増やしたい。特に経営企画や新規事業開発など、会社の未来に影響を与える部門でぜひ活躍してほしいと思っています。

――企業側からの人材に対するニーズはどのようなものでしょうか。

「デザイナー」の採用枠があるのは、社内にデザイン部門を持つ大企業かクリエイティブ系の企業だけですが、ブランディングや経営戦略を考える上でデザインの素養を持つビジネスパーソンを必要とする企業は少なくありません。これまでデザインに縁がなかった企業にそういう人材が1人入れば、企業風土もアウトプットの質も変わってきます。

 実際に、本学の卒業生の採用に当たって、わざわざ新しい部署を用意してくれた企業もあります。彼女は、在学中に産学連携プロジェクトにとても精力的に参加していたので、そのオープンマインドな資質に可能性を感じてくれたのでしょう。コミュニケーション力を買われて、IT企業に営業職で採用された卒業生もいます。

絵を描くだけじゃない!伝統の「女子美」で学ぶ、共創のデザインPhoto by ASAMI MAKURA