3月初めから急速に広まった世界的な信用不安は、UBSのクレディ・スイス救済劇を最後に、いったんは沈静化を見せている。不安の伝播を食い止めることに成功した各国当局の対応を賞賛する声もあるが、一方で流動性・資本性の金融規制の在り方や、銀行救済の進め方など多くの課題も露呈した。あらためて金融システムの安定化を図るための議論が行われてしかるべきだろう。今後、銀行からの流動性供給が滞れば、救済措置の範囲外となるノンバンクなどを震源地とした新たな金融危機が起こる可能性もゼロではない。
信用不安劇を巡る空前の騒動
シリコンバレーバンク(SVB)の破綻を発端とした一連の信用不安劇は、リーマンショック時とは異なり、流動性・資本性不安の波及速度が顕著だった。SVBの普通株式等Tier1比率は、昨年12月末時点で12.1%(グループ連結ベース)と、業界平均である9.7%を大きく上回っていた。にもかかわらず、3月初めにSVBの経営不安のうわさが立ち始め、3月8日に同行が発表した増資計画がとどめとなり、わずか2日後の10日に破綻に追い込まれた。本来であれば、資本増強という財務面に安心を与える取り組みが、逆に財務面での不安を増殖させてしまった。
SVBとは業態も地域も異なるクレディ・スイス(CS)がUBSによる救済合併まで追い込まれたのも、流動性に対する市場の不安からだった。これまで大手銀行が経営危機に陥るケースでは、不良債権や債券の損失、資本不足など、バランスシートにおける問題が原因であることが多かった。しかしCSの場合、過去にはこれらの問題も注目されていたが、直近では預金の減少率以外では、他のG-SIBs行(グローバルなシステム上において重要な銀行)と大差はなかった(図表1)。スイス金融当局は3月15日、CSに対して流動性支援を行う旨を発表したが、それでも市場の動揺は収まらず、3月19日にスイス最大行のUBSによる救済に至った。