たった1日で11×11から19×19の暗算ができるようになる!「子どもの算数嫌いを克服する」すごい本の秘密Photo: Adobe Stock

九九はできても、13×16や15×19といった「2桁のかけ算は暗算できない」とあきらめていませんか? そんな2桁×2桁の暗算がたった1日でできるようになる、という話題の本があります。それは、東大卒プロ算数講師の小杉拓也氏が書いた『小学生がたった1日で19×19までかんぺきに暗算できる本』です。これは、11×11から19×19の暗算ができる「おみやげ算」という方法を紹介しているもので、小学生が1日でマスターできるように、問題集やドリルのような演習形式になっています。この「おみやげ算」とはどういったものなのか、「おみやげ算」を身につけるとどのような効果があるのかについて、小杉氏に伺います。(取材・構成/神代裕子)

スピードと正確性を兼ね備えた、19×19までの暗算法!

──「おみやげ算」を使えば、11×11から19×19の暗算ができるとのことですが、例えば、「17×14」ならどのように計算するのですか?

小杉拓也(以下、小杉):次の2ステップで計算できます。

①17×14の右の「14の一の位の4」をおみやげとして、左の17に渡します。すると、17×14が、(17+4)×(14-4)=21×10(=210)になります。

②その210に、「17の一の位の7」と「おみやげの4」をかけた28をたした238が答えです。
まとめると、17×14=(17+4)×(14-4)+7×4=210+28=238です。

──11×11から19×19のかけ算は、一般的には筆算で解くと思うのですが、筆算よりおみやげ算のほうが優れている点を教えてください。

小杉:計算のスピードが速い点です。筆算をするには、紙と鉛筆が必要になります。そして、それらの道具を用意してから式を書いて計算して、間違えたら消しゴムで消して……というように、意外と労力がかかる方法です。一方で、おみやげ算は暗算なので筆記用具も要りませんし、慣れると5秒程度で、頭の中で計算できます。計算力はスピードと正確性が大事なので、その面からも有効な方法だと思います。

──この「おみやげ算」ができるようになる最大のメリットは何と思いますか?

小杉:かけ算の基礎は九九です。九九の大切さは誰もが知るところだと思います。一方で、11×11から19×19までのかけ算も頻出の計算ですから、その暗算ができるようになることで、九九に次ぐくらいの計算力の土台を作ることができるのが最大のメリットだと考えています。

また、小学生だけではなく、例えば、大学受験の数学でも19×19までの計算が必要になる時はありますし、大人になってからも使います。例えば、会議などで「1700人の12%」といった話になった時にも「17×12」の計算が必要です。それをパッと「204人ですね」と答えられるようになっておいて損はないのではないでしょうか。日常生活においても、例えば月会費が1400円のサービスの年間の会費を知りたい場合、電卓を使わなくても「1400×12」をパパっと暗算できる。このように、大人になっても活用できるという点から考えても、身につけるのがおすすめです。

やり方だけでなく、「なぜできるか」まで理解するのが大事

──どうしてこのおみやげ算で、11×11から19×19までの計算ができるのでしょうか?

小杉:この説明の仕方には主に2つあって、中学校で習う文字式を使った方法と、小学生向けの長方形の面積図を使った方法があります。小学生向けの面積図を使った方法は、本書の巻末に載せていますので、興味のある方はご参照いただければと思います。文字式を使った方法は、「本連載の第2回」で詳しく説明していますので、ご覧ください。

──本書に記載されている、長方形の面積図を使った説明は、非常にわかりやすいと感じました。小学生でも理解できそうですね。

小杉:本書は計算方法の解説がメインであるぶん、「どうしてその計算方法で計算ができるのか」は、必ず記載しなければいけないと思っていました。

長方形の面積図を使った説明については、親子で一緒に学習するのがおすすめです。長方形の紙を用意していただいて、実際に切ったり並べ替えたりして、「本当にこの方法で計算できるね」というのをお子さんと一緒に確かめてほしいのです。やり方を知るだけではなく、仕組みがわかることで本当の理解につながりますので、一緒に楽しく学んでいただければと思います。

数学は積み重ねの学問。つまずいたところから学び直しを

──受験といえば、小杉先生ご自身は、東大受験の時にはおみやげ算の計算方法をご存じなかったそうですね。

小杉:はい。そのため、筆算で計算していました。当時、おみやげ算を知っていたら、確実に使っていたと思います。

おみやげ算は、計算力向上のための一つの武器になりえます。私自身、「プラスになるものはなんでも身につけよう」という姿勢で受験に取り組んでいたので、おみやげ算を知っていたら身につけていたと思います。

──プロフィールに「算数や数学は得意ではなかった」と書かれていて、非常に驚きました。苦手だった算数や数学ができるようになった理由をぜひ教えてください。

小杉:高校時代の私は超がつくほどの文系科目好きだったのですが、東大を受験するにあたって、東大数学を突破できる力をつける必要に迫られました。そこで、当時評判が良かった参考書を1冊全部解いたのです。でも、それは自分のレベルに合っていない、非常に難しい参考書でした。頑張って1冊やり切ったのですが、全く成績が上がらなくて……。そこで、「自分のつまずいているところから始めないとだめだ」と思い、数学の教科書を使って基本に立ち返って学習を始めたら、徐々に成績が上がり始めたんです。そこから、さらにぐんと成績が上がったことで、なんとか受験で足を引っ張らない程度まで伸ばすことができました。

──ご自身の経験を通して、算数や数学ができるようになるには、何が大事だと感じていますか?

小杉:算数や数学は、積み重ねの学問です。例えば、高校生が、中学校の問題まで戻って学び直すのは抵抗があるかもしれませんが、算数や数学は、つまずいたところまで戻って学習しないと伸びていかない科目です。数学は学び直しが力を発揮する教科ですので、臆することなく、自分がつまずいたところからやり直すのが一番だと思います。

私の高校時代のように、自分の学力に合っていない難しい問題集を無理に解こうとすると、うまくいかないことが多いので「自分のレベルに合っている」と思える問題集から始めて、つまずいているところからスタートするのが「急がば回れ」で結局、近道になるのではないかと考えています。