「知ったかぶり」を
論破していくソクラテス
彼はまず馬鹿のふりをして出て行き、「今、正義って言ったけど、正義って何ですか?」という具合に相手に質問をするのである。それで相手が、たとえば「それはみんなの幸せのことだよ」などと答えたら、「じゃあ、幸せって何ですか?」とさらに質問を続けていく。これを繰り返せば、相手はいつか答えにつまるようになるだろう。そこで、すかさず「答えられないってことは、あなたはそれを知らないんですね。知らないのに今まで語っていたんですね(笑)」と思い切りバカにするのである。
ようするに質問し続ける限りは、質問者は常に攻め側で安全だが、逆に質問される側は矛盾しないようにがんばって回答しなければいけないので、長く議論をしていけば、いつかは攻め側である質問者(ソクラテス)が有利になるという話だ。こんなふうにソクラテスは「○○って何ですか?」と質問し続け、相手がボロをだしたら反論しまくるという戦法で、偉い政治家たちを次々と論破していったのである。
ソクラテスは、なぜそんなことをやったのだろうか?彼自身も述べているが、政治家にケンカを売ったところで、一銭の得にもならない。むしろ彼らから恨まれるだけである。それなのになぜ彼はこんな反則じみたやり方で、政治家たちに恥をかかせたのだろうか?
それは、ソクラテスが相対主義を是とせず、絶対的な価値、真理といった「ホントウの何か」を人間は追究していくべきなのだ、という熱い信念を持っていたからである。彼は、「価値観なんて人それぞれさ」を合言葉にホントウのことを追究しない世の中、見せかけだけの言葉で満足してしまっている世の中が許せなかった。そして、なんとかしたかった。だから、彼は、相対主義の思想に傾いた世界をひっくり返そうとひとり奮闘し、相対主義を信奉する政治家たちにケンカを売っていたのである。