反則技もいとわない
最強の論客登場

 紀元前400年頃の古代ギリシア。この古代の民主主義国家においても、同様のことが起きていた。

「国家のため!正義のため!みんなの幸せのため!断固たる決意を持って抜本的改革を!」

 プロタゴラスから相対主義の哲学を学んだ政治家たち。彼らは、見せかけだけの言葉を上手に操り、民衆たちから人気を得る術(すべ)を十分に心得ていた。彼らは、決して民衆に向かって真面目に政治の話なんかしたりはしない。だって、真面目に政治を語って、政治に興味のない民衆を退屈させるよりは、ただ耳に聞こえのいい、内容のないキャッチフレーズを繰り返した方が受けがいいに決まってるからだ。

 それにライバルの政治家たちは、みんな相対主義を学んでいるわけだから、下手に「こうあるべきだ!」「こうしよう!」なんて具体的にはっきりと語ったら、相対的な価値観であっさり反論されて、窮地に追い込まれてしまう。だったら、明言を避けて「抜本的改革を!」とか中身のない、なんとでも取れる、おためごかしの決まり文句や政敵の悪口でも言ってた方がよっぽどマシである。落選(無職)のリスクを背負ってまで、真面目に政治のことを語るなんて、まったくバカバカしいのだ。

 そんなどうしようもない衆愚政治の国家に鉄槌をくだす男が現れる。ソクラテス(紀元前469年~紀元前399年)である。ソクラテスは、自らを「大きな馬にまとわりつく虻」と称し、いい加減な政治家たちをガツンとやっつけようと彼らに論争をしかけた。

 だが、相手は、相対主義を駆使した弁論術を操る、当時最強の論客たちである。まともに議論をしても、相対主義の詭弁に振り回されて終わるのが関の山だろう。そこで、ソクラテスはある巧妙なやり方を考えた。