田原総一朗が懸念する、岸田首相襲撃事件と戦前の「要人襲撃」連鎖、その背景Photo by Ryota Horiuchi

4月15日に起こった岸田文雄首相を狙った襲撃事件。安倍元首相の襲撃事件のわずか9カ月後に起きたこの事件に関し、ジャーナリストの田原総一朗氏は、戦前の「要人襲撃の連鎖」が頭をよぎったという。「当時とは状況は異なるが」と前置きをした上で、政治不信や社会不安を感じる人が増えていることの懸念を語る。(構成・文/ダイヤモンド社編集委員 長谷川幸光)

安倍元首相の襲撃事件の9カ月後に
同じく応援遊説中の岸田首相が襲撃される

――4月15日、午前11時30分頃、和歌山県和歌山市の漁港において、岸田文雄首相を狙った襲撃事件がありました。

田原総一朗(以下、田原) 和歌山1区の衆議院補欠選挙(4月23日に投開票)の応援遊説中に、金属製とされる爆発物が投げ込まれた。約50秒後に破裂し、警備中の男性や聴衆の1人が軽傷を負ったが、岸田首相は避難していて無事だった。もし、爆弾の精度が高く、威力が強ければ、大惨事となっていた可能性がある。

田原総一朗が懸念する、岸田首相襲撃事件と戦前の「要人襲撃」連鎖、その背景田原総一朗(たはら・そういちろう)
1934年、滋賀県生まれ。ジャーナリスト。早稲田大学卒業後、岩波映画製作所や東京12チャンネル(現・テレビ東京)を経て、1977年からフリー。テレビ朝日系「朝まで生テレビ!」等でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。1998年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ「ギャラクシー35周年記念賞(城戸又一賞)」受賞。早稲田大学特命教授や「大隈塾」塾頭を歴任する。「朝まで生テレビ!」「激論!クロスファイア」の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数。近著に『さらば総理』(朝日新聞出版)、『人生は天国か、それとも地獄か』(佐藤優氏との共著、白秋社)など。2023年1月、Youtube「田原総一朗チャンネル」を開設。

 容疑者はなぜこのようなことをしたのか? この24歳の青年は、岸田政権のあり方に批判的で、参議院で直接、意見したいと考えていたという。

 昨年7月10日投開票の参院選に立候補しようとしたが、被選挙権年齢である30歳に達していない、300万円の選挙供託金納付を証明する供託証明書を提出しなかった、という理由で立候補が許されなかったとし、法の下の平等などを定める憲法に違反すると主張。国に損害賠償を求める訴訟を起こしていた。和歌山県警もこのことを把握しており、黙秘を続ける容疑者の犯行動機との関連を調べている。

 昨年の安倍晋三元首相の襲撃事件では、犯行に及んだ山上徹也被告は、母親が旧統一教会へ全財産を投げ出したことが要因で家族が不幸に見舞われ、安倍元首相が旧統一教会のPR活動に携わったと考えて襲撃した。この時は犯行の動機がはっきりしていた。一部では被告の境遇に対して同情的な論調もあった。

 ただ、今回は犯行の動機が非常にあいまいだ。安倍元首相の襲撃事件から着想を得て実行した模倣犯ともいえるが、一種の自己顕示欲の暴発でもある。

 自身の境遇や社会に不満を持っていて、世の中を変えなければいけないと感じているが、自分の力で変えるのは非常に難しい。孤独や絶望感が増し、要人を襲撃して無理やり変えてしまおうと考える。

 こうした、共犯者や特定の組織が関与せず、単独で犯行に及ぶ者を「ローンオフェンダー」(単独の攻撃者)と呼ぶらしい。安倍元首相の襲撃事件以降、警察庁はローンオフェンダーへの対策を強化すると述べていたが、その矢先に今回の事件が起きてしまった。

 私はこうした襲撃事件が連鎖することを心配している。戦前、要人への襲撃事件が相次いで起きたことがあった。安田善次郎はご存じだろうか?