日本は危機を予見し、ヤバイと叫びながら変われない国

 そもそも、なぜ異次元の少子化対策が効果がないなどと断言するのか。理由はシンプルで、過去50年間取り組んできても無理だったものが、このタイミングで急に状況が変わるとは思えないからだ。

 例えば、1967年4月27日の「ふえる老人 減る子供 人口問題をどうする 厚相、審議会に意見きく」という読売新聞の記事では、以下のような厚生省人口問題研究所の推計が掲載されている。

「総人口は約500万人ずつ増加しているが、これも昭和八十年(一億二千百六十九万人)をピークとして減少に転じる。(中略)昭和九十年には幼少一七%、成人六三%となり、老齢人口が二〇%を占めるという」

「昭和80年」にあたる2005年の実際の人口は1億2777万人で、この試算よりも増えているが、昭和90年にあたる2015年の15歳未満は12.6%、65歳以上は26.6%となり試算よりも深刻なことになっている。

 このような「誤差」はあるものの、日本では50年以上も前に現在の「危機」をある程度正確に予見していたのである。

 では、これまで50年間、政府は何もしてこなかったのかというとそんなことはない。政治家、霞が関のエリート、頭脳明晰な専門家らが延々と議論を繰り返して、さまざまな取り組みを続けてきたのである。

 しかし、どれも空振りだった。大量の税金を注ぎ込んで、子育ての関連の補助金をバラまいたり、なぜ若者は結婚しないのかという調査を行なったりしたが、結局は、50年前の予測通りに進行している。いや、予測よりも状況は悪化している。

 つまり、我々日本人はこの半世紀、「ヤバいよ、このまま行ったらヤバいことになるよ」と叫んで必死に抵抗しながらも、そのヤバい状況にハマってきたという動かし難い現実があるのだ。それが「異次元の少子化対策」なんてキャッチコピーができたくらいで、急にガラリと変わるだろうか。

 変わるわけがない。これまでの50年間と同様に、勇ましいかけ声と大量の税金が投入されるだけだ。日本の人口が8000万人台になって、「4割が高齢者」という世界有数の老人大国になる道はもはや避けられないのだ。