次に、飲める男性と飲めない男性の収入を比較したところ、飲める男性の収入が飲めない男性の収入を0・7%上回るものの、両者の間に統計的に有意な差はないことが明らかになった。労働時間についても同様の分析を行ったが、両者の間に差は見いだされなかった。われわれの結果は、飲めるか飲めないかは所得や労働時間には影響しないことを示している。
医学分野の研究でも、適量の飲酒は健康状態を向上させるという通念とは逆に、少量であれ飲酒は有害であるとの研究結果が知られるようになっており、飲酒により健康状態を向上させるという考え方は徐々に否定されている。今回の研究結果は、適度な飲酒がビジネスコミュニケーションを円滑化して生産性を向上させる、いわゆる“飲みニケーション”効果の存在をも否定する。
お酒をやめるべきだと主張したいわけではない。そもそもお酒は健康状態の改善や生産性の向上といった打算で飲むのではなく、お酒そのもの、お酒を飲むことで生まれる人間模様、お酒にまつわる文化的な広がりを、誰に強要されずとも、自由に楽しむべきだ。特に、体質的にお酒に弱い人が約半数を占めるわが国では飲酒の強要はご法度だ。
(東京大学公共政策大学院 教授 川口大司)