「自分が何をしたいのか」
現場の声を拾って仮説を立てる
長内 「自分から」つながりで、「お前はどうしたい?」というリクルートさんの有名な言葉があります。
島 オプションが増え続け、検証しなければいけないことも増えていく中で、指示待ち状態になってしまうと、スピードが遅くなってしまったり、良くも悪くも人の手足にしかならなかったりしてしまいます。
正解がない状態のときは、いろいろな立場や領域の人たちが、エラーをするという前提で「あなたはどうしたい?」と問いかける。それに対して、新規事業の担当者が「私はこのファクトからこういう仮説を持っている」とぶつけられる状態にある。それこそが、新しいことにチャレンジするのに向いているスタンスだなと、過去いろいろな方を見てきて思います。
長内 現場が主体的に動くために問いかける、ということですね。
島 新規事業で主体的に動ける人が「こういうフェーズに合っている」「うまくいっているユースケースを拡大する」と考えているときは、既存事業のオペレーティブな人が活躍できるフェーズになったり、必要な人員を投入する正しいタイミングだったりする。そのあたりは、社内でもすごく意識しています。
長内 宇野さんのお話の中で、「ヒエラルキーの構造をネットワーク型に変えました」というのがありました。それも主体的に現場が動くための仕掛けと捉えていいのでしょうか。
ライオン歯科材事業推進部、ライオン研究開発本部イノベーションラボ所長(2018~22年)。1990年、ライオン入社。歯磨剤の開発、クリニカブランド ブランドマネジャー、オーラルケア製品の生産技術開発を担当。2018年1月、イノベーションラボの立ち上げと同時に所長就任。ライオンが掲げるパーパス「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する(ReDesign)」に向けた、新規事業の創出をミッションとするイノベーションラボを率いる。23年1月より、ライオン歯科材事業推進部。現在、未経験の領域に挑戦する試行錯誤、一喜一憂の日々を送る。趣味は、読書、ゲーム、SF、アニメ、ウイスキーなど。新たな挑戦をし続けるチームづくりや人づくりを生業とする(23年3月時点)
宇野 そうです。まさに、「君たちが主役だし、君たちが動かなければ何も始まらない」とハッパをかけ続けています。誰のせいにもできない状態に意識的にすることで、プレッシャーにもなりますが、ものすごく自由な組織になります。
長内 主体は現場であり、現場が重要だ、という仕掛けづくりをうまくしていったということですね。
宇野 現場で顧客の声を知り、それを持ってくる本人が一番強いという状態です。
長内 経営の分野では、ボトムアップの戦略のことを「創発的戦略」といいます。「創発」というのは物理学の用語で、「一部の変化が全体に影響を及ぼす」という意味です。つまり、現場の小さな情報が全体の戦略に影響を及ぼすと。
そうした、顧客の声を拾ってくるとか、変化を捉えるといった、現場の一つ一つのことが大切というのを大前提にしたとき、リーダーはどうあるべきでしょうか。
島 よく当社のトップが言ってるのが、「今のタイミングでは、リーダーは川下り型になることがすごく大事だ」ということでした。
少し前までは、マーケットの中で「こうしていけばいい」というのが見えれば、積み上げ式の山登り型にすることで「未来を目指してここに行こう」「みんな行こうぜ」という形で組織を強固にしていました。
その半面、川下り型というのは「環境が大きく変化する中で、流れに反発してはいけない」ということだと捉えています。結果、今までのやり方を変えることに対して、リーダーが朝令暮改というか、どうしようかなとちゅうちょしてしまうと、その結果、現場に何かしらノイズが起きてしまう。
そのため、リーダーが意思決定の変化をきちんと現場に伝えることがすごく大事です。ピラミッド型の組織だと、もし朝令暮改になってしまったときに「ごめん」と言いづらいですよね。そこが大きなポイントなのかなと思います。
宇野 確かに「ごめん。これ、ちょっと変える」というのは、結構言っていました。
長内 それはやはり、新規事業の不確実性が高いからこそ、何かを決めておいても変わってしまうことが多いというわけですよね。
宇野 そうです。
長内 そこにうまく対応していかないといけない。
宇野 今の時代、組織づくり自体を常に変化させなければならず、「せっかくつくったから」「このシステムを守らなければ」という姿勢では、到底うまくいきません。