「ありたい姿」をまず打ち出して
そこからバックキャスティングする

長内 コマツさんのように、大きな製品で設備投資の額が大きいと、朝令暮改はなかなか難しくなりそうですが、そのあたりはいかがですか。

四家 我々の事業に関しては、とにかく、最初から「現状起点」で考えるのではなく、「ありたい姿」をまず打ち出して、そこからバックキャスティングで考えていこうとしています。

 現状起点にしてしまうと、ある一定の領域から外に出ていけないからです。私が大言を吐くと「また大ボラが始まったな」と役員会で笑われることもありますが(笑)、そういうところから新規事業に入っていく。その中で失敗が起きたとしても、「ここに向かっていくんだ」という目標がある限り、前へ進むことができる。

長内 大ボラというのも、結構大切かもしれませんね。

コマツ・四家氏コマツ・四家氏

四家 はい。

宇野 そういう自分のキャラを作るのは大切です。

 確かに。

四家 事業への投資のため、やはり回収についてを聞かれるわけですが、私自身は「投資回収なんてすぐには計算できない」と思っています。とはいえ、そう話すと「また四家メソッドが始まったな」とみんなに大笑いされますが(笑)。いずれにせよ、ありたい姿からバックキャスティングで考えることを大切にしています。

長内 将来の不確実性のリスクが高いか低いかによって、過去のデータがどれだけ役に立つかは、だいぶ違うと思います。

 例えば、食品メーカーのような口に入れるものを扱っているところは、コンサバティブなので、割と予測が立ちやすい産業だといわれています。一方で、皆さんの環境はおそらくそれとはかなり違っていて、先が読みにくいところも多いと思います。

 過去のデータの扱い方、あるいは、将来に対して、どういう説得力を持たせたら、社内外の人たちを説得できるのでしょうか。もしかしたら、そこで大ボラを吹くというのは一つの手かもしれません。私もそれはよくやってきました。

宇野 将来的な事業を提案する場合は、必ず「将来こうなります」と提示することになります。そのとき、将来のことは実はわからないけれど、書くことは書く。ですから、おっしゃる通りだと思います。

 将来のことはわからなくても、なりたい姿はあるわけで、そこに向かって、現在考えている予測はこうですと、とりあえず打ち出す。右往左往しながらそこを目指して進んでいくということだと思います。

リクルート島さんリクルート・島氏

 不確実だからといって、予測をすること、蓋然性(がいぜんせい)を詰めていくこと、これらを諦めないというのが大前提でしょう。

 一方で、ゴルフでいうところのフェアウェーとOBの線引きをどうするのかというのを、前もって事業提案側も決めておかないといけません。

 また、それをジャッジする側、投資する側も、「ここまでいったらダメ」という部分を決めるのはすごく大事だと思っています。事業の不確実性はもちろんですが、特に今はガバナンスという部分で、すごくいろいろな要素が絡み合っていますから。

 フォーマットをガチガチにしてしまうと、トライ&エラーの回数などにとても大きな影響が出てしまいます。一方で、フォーマットをガチガチにしないでフリーにしたとき、OBになったときの影響度合いも大きくなってしまう。

 ですから、フェアウェーを定義したり、ルールを決めたり、そういうルールづくりに合意してもらえるかどうか。新規事業ではまずそこを勝ち取れるかどうかが、大きなポイントになるのではないでしょうか。

四家 私の場合、事業化うんぬん以前に、まずは「顧客の新しい価値を創造するんだ」というところからスタートしています。

 新規事業を始める前に会社に確認したのは、「世界中の顧客のために新しい価値創造することに汗をかいたら、少しは我々にも分配してもらえますよね」という部分です。

 そこだけはきちんと事前に確認しておき、あとはとにかく価値創造ができるのか、どのぐらいできたのかを我々が管理できるかどうかです。

 そういう意味では、価値創造の不確実性はあるのでしょうが、価値創造した暁には、必ずその分配をしていただけるというところからスタートしています。

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