「ごく初期のスペクター・プロトタイプを一部のお客さまにご披露したところ、皆さまいちように喜んでいらっしゃったのと同時に、ほっとしていらっしゃる様子だったのが印象的でした。キャビンに巨大なディスプレイを置いたりせず、いかにもロールス・ロイスらしい仕上がりにしたことで、皆さま安心されたようです」
試乗会場でインタビューしたロールス・ロイスのトルステン・ミュラー・エトヴェシュCEOは、私にそう打ち明けた。
エンジンモデルとの違いはV12サウンドが聞こえないくらい
実際に試乗しての印象も、いかにもロールス・ロイスらしいもので、EVだから静かなのは当然のこと、路面から一切のショックを伝えないしなやかな乗り心地も、それでいながらドライバーの操作に正確に応えてくれるハンドリングも、まさにロールス・ロイスそのものだった。
従来のエンジンを積んだロールス・ロイスとの数少ない違いは、追い越し加速などで強くアクセルペダルを踏み込んでもV12エンジンの心地よいサウンドが聞こえなくなったこと。そして、シフトレバー上に設けられたBボタンを押すと、ブレーキペダルを踏まなくてもアクセルペダルを離すだけで完全停止までできるワンペダル・ドライブが設定されたことくらいだろう。
ちなみに、EVでよく見かけるワンペダル・ドライブは、慣れないとかえってクルマの動きがギクシャクしてしまうものだが、ロールス・ロイスの場合はさすがによく練り込まれていて、スムーズに走らせるのが容易ないっぽうで、止まるべきところではすっと止まる反応のよさも備えていた。