元請けとなるX社が国と契約し、それが岐阜県の卸業者を通じてAさんの会社に話があったのは2020年4~5月。アベノマスクの仕様書を受け取ったときのことを、Aさんは今も鮮明に記憶している。

「布製のマスクで、1枚の大きなガーゼを繰り返し折り畳み、15層に仕上げる。マスクの大きさ、耳にかかるひもの長さなど、ズレは2ミリまでしか許容しないといった内容でした。1週間から10日で何万枚もやってくれという。うちの規模では厳しかったけど、コロナ禍で仕事がない時期。とにかく請けるしかありませんでした」

“アベノマスク”443億円で儲けたのはだれ?下請け業者「コロナ禍で仕事なく、採算割れでも請けた」アベノマスクの仕様書
“アベノマスク”443億円で儲けたのはだれ?下請け業者「コロナ禍で仕事なく、採算割れでも請けた」アベノマスクの仕様書

 だが、単価が1枚40円あるかないかでは採算がとれないため、値段の交渉をしようとしたという。

「生産者を無視している値段ではないのかと思って、せめて70円、無理なら60円でと頼みましたが、『とにかく急いで』『時間がない』といった話で結局変わらず。発注元は政府から仕事を受けている大手企業でしょう。しつこく『アップを』と言えば、卸業者からブラックリストに載せられて仕事がこなくなります。うちのような10人ほどの零細企業は、『指示通り』『言いなり』で仕事をするしかありませんでした」

 受注後は納期に間に合わせるため社長のAさんも加わり、毎日朝6時から夜11時まで作業が続いた。大きなガーゼを折り込んで、ひもをかけていく単純な作業が延々と続き、夕方になると配送業者が製品をトラックで卸業者に運んでいく。短期間での大量の手作業。「糸くずが検品で発見された」などと叱責(しっせき)されたこともあったという。

“アベノマスク”443億円で儲けたのはだれ?下請け業者「コロナ禍で仕事なく、採算割れでも請けた」アベノマスクの製造を請け負った業者の作業の様子(業者提供)

 Aさんの会社では1カ月弱、めまぐるしい日々が続いた。

「仕事をしていたスタッフのなかには外国人の研修生もいました。睡眠時間も3~4時間で倒れそうになりながら、コロナ禍でいつ感染するかもわからないなか、マスクをひたすら作り続けました。その後、コロナに感染して重症になったり、過労で長期間休んだりしたスタッフがいます」

 Aさんはそう振り返り、こう訴えた。