ワークショップで現実と虚構のバランスを取る

藤本 そして翌22年にいよいよ着手されました。メンバーはどのように集めたのでしょうか。

浅田 情熱のあるメンバーを集めたかったので、本部内で何度も趣旨を説明し、自分から手を挙げてもらいました。テーマ探索の領域は「食」と「パーソナルヘルスケア」を設定しました。これも社内でずいぶん議論しましたが、誰もが主体的に取り組めるように、身近な領域の方がいいだろうと。

未来のユーザー目線で探索せよ! クラレの新技術開発を実況中継浅田光則氏(クラレ 研究開発本部 企画管理部)
Photo by YUMIKO ASAKURA

藤本 水谷さんはワークショップに名乗り出たメンバーの一人ですね。参加しようと思った動機は?

水谷 浅田の説明を聞いて「本気だ!」と思ったことが一つ。もう一つは「ユーザー視点」というスタンスに強く引かれたことです。メーカー目線で「この製品を売ろう」と考えるとプレッシャーが先立ちますが、自分の未来を自分で提案できると思うとワクワクします。

藤本 ワークショップは、クラレさん独自のカスタマイズをされていましたね。

浅田 遠くに発想を飛ばす「発散」と、そこから未来像に落とし込む「収束」の2段構えでワークショップを設計したのは藤本さんの提案通りですが、そこから直接SFのプロットを固めるのではなく、独自のステップとして「実現可能性調査(フィージビリティー・スタディー=FS)」を加えました。

藤本 FSでは、それまでに出てきたアイデアに現実の研究状況や市場環境をぶつけて精査し、その結果もSFのプロット作りに反映させましたね。このステップを加えた狙いをお聞かせください。

佐々木 最終的に、実現性のあるテーマを絶対に抽出したいと思ったからです。ハジけたいけど、出口のことを考えると、実現不可能なほどハジけることはできない。それを担保する仕組みとしてFSを入れました。早い段階から技術を意識することで着地点をコントロールできたと思います。

藤本 水谷さんは、ワークショップを実際にやってみた感想はいかがでしたか。

水谷 すごく楽しかったです。言葉をどんどん組み合わせて「こんな未来もあるかも!」と盛り上がりました。でも同時に「自分の発想って陳腐だな」とも思いました。これまで未来のことなんて考えたこともなかったので。今は、映画を見ても、新聞を読んでも「これはこんな未来につながりそう」とつい考えるようになったので、少しは引き出しが豊かになったかなと思っています。