パワーポイントで表せないものの中に、未知の価値が潜んでいる
この連載では、「感じる」「つくる」「やってみる」といったパーソナルな体験が、未知にアプローチするための非常に重要な要素であることを繰り返し伝えてきました。これは、新しい価値を生み出すあらゆる活動に共通していると私は思っています。
歴史を振り返っても、世界を一変させるような革新的な発明は、往々にして個人的な欲望やこだわりから生まれてきました。極めて属人的な感性こそが、イノベーションの鉱脈なのです。しかし、日々のビジネス活動の中で、個人的な思い入れを創造的に生かすのは難しい。多くの組織では(大企業ではなおさら)、「脱属人化」のベクトルが強く働いているのではないでしょうか。
ふとした発見、あるいは違和感──。未知を内包した感性は、日常の中でも絶えず発動しています。しかし、それをビジネスにつなげようとした瞬間、「提案はパワポにまとめて」とか、「上司の疑問に全て回答するまで承認できない」と、初めから言語化や説明を求められてしまう。まだ何も始まってないうちから「わからないこと」を全て排除し、「説明できること」に変換しようとすれば、言葉で説明できないものは「ないもの」として不可視化されるしかありません。
ノウハウをマニュアル化したり、手順をフローチャート化したり、ルールを明文化したり……。多くの企業は、個人に根差した暗黙知を、組織内で流通させやすい形式知に変換して蓄積していく「脱属人化」を実践しています。こうしたやり方は、既知の物事を拡大再生産するのが目的なら、確かに有効です。しかし、未知の物事を世に送り出すのにふさわしい態度ではありません。