ついにたどり着いた
「相思相愛」のクラブチーム

 立ち止まっている時間はない。悔しさと危機感にも通じる思いが成長を加速させた。そこへコミュニケーションをさらに密にしながら、ソシエダで自らの力で築き上げてきた環境が加わる。

 マドリード戦後に更新されたクラブの公式ツイッター日本語版(@RealSociedad_JP)で、インタビュアーから「試合を重ねるごとによくなっているね」と向けられた久保はこんな言葉を返している。

「みんなが僕を信頼してくれている。監督から、チームメートから、何よりもファンから。ピッチ上でこれほど信頼されていると感じられることは、プロになって以来なかったと思っています」

 プロサッカー人生で相思相愛のクラブと巡り会える確率は決して高くない。しかし、完全移籍でソシエダに加わった決断に誰からも愛される明るいキャラクター、そして持ち前のコミュニケーション能力を融合させながら、100%の実力を発揮する上で理想といえる状況をたぐり寄せた。

 例えば先制点に加えて相手のオウンゴールも誘発し、ソシエダを快勝に導いた2月のエスパニョール戦後のひとコマ。ピッチ上でマイクを向けられた地元ラジオ局の即興インタビューで、聞き手から「ようやく居場所を見つけられたのか」と問われた久保は、充実感を漂わせながらこう語っている。

「いままでのところ、僕のベストシーズンだといえるでしょう」

 このやりとりには伏線がある。再び昨夏の加入会見に話を戻す。スペインメディアから「これまでもいい時期がありながら、継続できなかった。今回がラ・リーガで覚醒するチャンスだと思うか」とやや厳しめの質問を向けられた久保は、相手をしっかりと見すえながら首を縦に振っている。

「そうなるために、僕はここへ来ました」

 久保は2027年6月末までの5年契約でソシエダへ加入した。ただ、マドリードは久保の保有権の半分を600万ユーロ(約8億8800万円)でソシエダへ売却。残り半分を引き続き保持し、久保を買い戻す場合には3000万ユーロ(約44億4000万円)の移籍金を支払う契約を交わしたとされる。

 一方でソシエダは、久保の契約解除条項として6000万ユーロ(約88億8000万円)の違約金を設定している。要は契約期間中にマドリード以外のクラブが久保の獲得に動く場合、マドリードの倍に当たる多額の資金が必要となる。マドリードが優先されるオプションが設定されたわけだ。