2022年11月に公開された米国のスタートアップ、オープンAIの自動応答システム「ChatGPT」があらゆる業界に衝撃を与えている。対話型AI(人工知能)による新テクノロジー出現を受けてIT業界では開発競争が激化し、関連サービスも次々と誕生しているのだ。時代の潮流に乗り遅れるな、とばかりに各国はしのぎを削るが、デジタル変革が進まない日本の動きは鈍い。少子高齢化が加速し、生産性向上が叫ばれて久しい日本はなぜ取り残されようとしているのか――。(イトモス研究所所長 小倉健一)
マイクロソフト創業者
ビル・ゲイツ氏も太鼓判
世界で利用者が急増する「ChatGPT」は、ローンチから約2カ月で月間ユーザー数が1億人を突破。史上最速で急成長するアプリケーションだ。3月14日には新バージョン「GPT-4」も発表し、インターネット上の膨大な情報から導き出す質問への返答の正確性が向上した。
米マイクロソフトの創業者であるビル・ゲイツ氏が「ChatGPTはわれわれの世界を変えるだろう」と太鼓判を押す通り、情報収集や分析、解決策の提案に助言といったさまざまな使い方が可能だ。
コンピュータープログラムの確認・修正やデータ集計をはじめとするビジネス面での活用はもちろん、メール文案から夕食のレシピ案まで人間に提示してくれる。対話型AIの出現によって「急速な技術革新の競争がスタートした」(マイクロソフトのサティア・ナデラCEO)のは間違いなく、仕事の効率アップを急ぐ世界中の企業が熱視線を送る。
ただ、残念なのはデジタル変革が遅れる日本の動きが鈍いことだ。ベンチャーやスタートアップは新時代の幕開けに適応すべく創造力をフル回転させているが、日本全体で見れば業務効率や労働環境を改善するDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みは遅れている。
スイスのビジネススクールIMDが公表した2022年の「世界デジタル競争力ランキング」を見ると、日本の総合順位は63カ国・地域のうち29位だ。中国(17位)や台湾(11位)、韓国(8位)に負けており、DXをうまく進められない企業や成果を実感できていない企業も目立つ。
経済産業省によれば、DXの足かせになっているのは老朽化・複雑化した「レガシーシステム」の存在だ。既存のシステムが属人化・複雑化し、改修や復元に手こずっているのだという。ただ、DXが進まなければ25年に年間12兆円もの経済損失が生じる「2025年の崖」が訪れると経産省が警鐘を鳴らしながら、日本のデジタル政策が遅れを取ってきたことは否めない。