病院へ搬送中に聞いた、父親の本心
こういったサービスにおいては、家族は同乗させないのが基本である。息子や娘が視界に入ると、騒ぎ出す可能性が高いからだ。今回は、私自身が勉三さんの様子を見ておきたかったので同乗させてもらうことに。すると驚いたことに、レビーの勉三さんが、柔和な表情で会話に応じてくれるではないか。
勉三さんはかなりの難聴のようだったが、94歳という年齢を考えると驚くほどしっかりしていた。レビーの特徴は認知変動の激しさ(時間帯により、記憶力・理解力が著しく上下する)だが、このときは筆談も交えて、十分に意思疎通を図ることができた。私はいつもそうするように、これからの人生をどのように過ごしていきたいのかを勉三さんに聞いてみた。
年初から両膝の痛みがひどく、日課にしていた買い物がてらの散歩もできなくなり、家にこもるしかなくなった。1日2回家に届けられる配食を玄関まで取りに行くのも、トイレに行くのもはって行くようなありさまなので、何とか自力で歩けるところまで回復させたいと話す。一方、健太郎さんの話では、整形外科クリニックに出向くたびに待合や診察室で過激な態度を取ってしまい、検査も治療も受けずじまい。独居シニアを見守りに来る民生委員や行政職員とも都度トラブルを起こし、いつしか距離を置かれるようになってしまったとのことだった。
健太郎さんからは、父親の財産状況についても聞いていたので、そのあたりのことも触れてみた。
「息子も娘も、区役所もケアマネも、誰も彼もお金お金と、ワシの預金を狙ってくる。誰も信用ならん。おそらく、ワシを病院やら施設やらに押し込んで、ワシの金をネコババしようとしてるに決まってるんだよ」と勉三さんが言うので、「でも、天国じゃあ、円は使えないみたいですよ。縁起の悪い話で恐縮ですけど、勉三さんにもしものことがあったら、健太郎さんと千鶴さんで半分ずつ分けることになるんですかねぇ」と聞いてみると、予想もしなかった言葉が返ってきた。
認知症問題に潜む、財産分けの思惑
「いやあ、健太郎には何もやりたくないですよ。子どもの時から散財してばっかりで、どれだけ出してやったか分からんもんね。大人ンなってからも、親の金ばっかせびりに来てさ。あれは情けないよね。その点、千鶴はきちんとしててね。学費も結婚も、ぜんぶ自分で賄ったんじゃないですかねぇ。遠くに嫁いじゃったもんでなかなか会えないけど、孫がおんのよ。双子の姉妹なんだけどさ。ワシのお金は、あの子らの将来に使ってもらうのが一番じゃないのかねぇ」
健太郎さんからは、父親名義の財産は約5000万円と聞いていた。目黒の実家マンションが2000万円、預金が3000万円。妹が遠方にいるため、父親のことは自分が対応せざるを得ないから、父親の医療や介護のこと、実家の管理等は自分がするしかないと思うという話だったのだが……。