「東大寺学園」元教諭が塾を開いて痛感したこと、衰弱する公教育と細る家庭教育子どもの成長に大人からの視線は欠かせない。主婦でもある塾の先生とのやりとりを、口は挟まずに見守る母親の存在が、子どものやる気にもつながる

全国屈指の難関進学校である東大寺学園で渉外部長としても幅広く活動してきた数学科教員が、定年退職後、さいたま市で個別指導塾を開いて痛感したこと、それは目に見えて衰弱している公立小中校の実態と、共働きが一般的になってきた家庭での教育力の低下だった。子どもの学力涵養のため、塾の役割も含めた学びの仕組みを考えてみよう。(ダイヤモンド社教育情報、撮影/平野晋子)

「東大寺学園」元教諭が塾を開いて痛感したこと、衰弱する公教育と細る家庭教育
布村浩二(ぬのむら・こうじ)

個別指導塾責任者、元東大寺学園中学校・高等学校渉外部長
NPO家庭学習推進協会

 

さいたま市浦和区にある個別指導塾責任者。1962年京都生まれ。京都教育大学卒業後、京都府立高校を経て、東大寺学園中学校・高等学校で数学科教員として25年間勤務、渉外部長なども務める。2022年に定年退職後、現職に。同年11月にはNPO家庭学習推進協会も立ち上げた。

 

 

 

形だけ整える公立中の実態

――こちらを立ち上げたのはいつからですか。また、なぜ浦和で。

布村 昨年7月からです。最初は都区内で探しましたが、賃貸料が合わず、郊外になりました。隣の駅は塾の数も多く、競争が激しかったので、こちらの駅前に決めました。駅近ではうちが3軒目の個別指導塾です。

――個別指導塾は小学生から大学受験まで、すべてが対象ですね。

布村 私は小学校の教員免許状も持っているので、小学生に一度は関わりたいと考えていました。長く東大寺学園で教えてきましたが、塾生募集をしてまず実感したのは、これまでの経験がこんなにも生きないものか、ということでした。

――個別指導塾では、立地が決め手になりますからね。

布村 小学生は近場の塾に通いますが、この駅から半径1キロ以内に公立の小学校も中学校もありません。口コミで広がるかと甘く思っていました。集団指導の塾は、自学自習ができている子に適しています。個別指導塾は、集団指導に合わないタイプの子どもが来てくれます。東大寺学園の時も不登校生徒の対応をしていましたが、いまも不登校の塾生がいます。

――いわばいまの学校の枠内でご苦労されている生徒さんが集まるわけですね。在籍のお子さんは小中高、どのような感じですか。

布村 昨年の10月とか12月に、高校入試を控えた中3生がたくさん入ってきました。

――受験勉強の追い込みの時期ですね。埼玉ですと、北辰図書の模擬試験がありますが、その成績が伸びないとかでしたか。

布村 成績が落ちてしまって、と入ってきましたが、この時期ですと残り1回か2回しか模試を受ける機会は残っていません。せめて夏休みまでに来てほしかった(笑)。本音で言わせてもらうと、本命校はきつい、残された時間でなんとかできる範囲で、と言いました。結果的に全員合格しましたが。

――追い詰められてですね。なんでそうなってしまうのでしょう。

布村 学校現場にいた経験からすると、公立中学の先生方には、もう少し子どもたちに力を付けてほしいと思いました。彼らが教わった内容を見ると、きちんと計画を立てて教えられていませんでした。抜けている単元がすごく多い。とても3学期中には教えられないような量が残っていたようです。数学などではプリントにまとめたものを配って簡単に終わらせたそうです。

――最後は圧縮して、「やった」というアリバイ的な対応ですね。

布村 入塾したときに彼らは、100点満点の模試で8点とか9点でした。それでも県立高校に行きたいと。よくここまで放置したなと思いました。ところが、学校の成績は「3」なんです。絶対評価なら通常はあり得ませんが、「2」を付けると推薦入試に影響する。そこで、提出物などでゲタを履かせる。これは先生の思いやり、優しさなのでしょうが、高校に進学してから果たしてやっていけるのだろうか。本当の力を付けてやってほしいと改めて思いました。