行く手を阻む母、なすすべをなくした娘

 まだ“正気”の側にいるつもりの人間なら、読み終えるまでずっと気持ちがザワザワする本だ。LINEやメールの記録、あかりの手紙を中心に、あくまでも狂った母と娘のやりとりから明らかになる「母娘の真実」が丹念につづられる。

「どうしてちゃんとできないの?」「嘘付き」「バカ」「デブ」「不細工」「寝るな!」「勉強しろ!」「素直に謝れ」「開き直りやがって!」「土下座して頼め」「お父さんみたいになるよ」「次やったら家から追い出すからね」「ちゃんと成績取れなかったら学校辞めさせるからね」「死ねばいいのに」「消えろ」

 母親の叱責を恐れたあかりが学校の成績表を改ざんして見せたら、粗末な偽造が見破られ、灯油ストーブの上で湯気を出していたやかんの熱湯を太ももにぶちまけられたこともあったという。

 微量の狂気がずっと混じる、論理の飛躍や欠陥の目立つ、暴力的で他責的な母の主張。何をぶつけられても「そうですね。私がいけなかったです」と諦めたように応じる娘。医大受験失敗以降の9年で母の狂気と暴力がさらに加速していく。より粗野に、何かのタガが外れていくように。

 齊藤は指摘する。「浪人生活を断ち切る努力は、あかりさんもしているんです。それが9浪にまでなってしまったのは、あかりさんの試みがことごとくかなわなかったからだと思うんですね。あかりさんは高3から何度も家出していますが、妙子さんが警察や私立探偵を使って、ことごとく連れ戻しているんです。あかりさんが会社に就職して寮で自活しようとしても、気づいたお母さんに電話を入れられて内定取り消しになっていたり。私の見立てですが、ここまで脱出を阻まれると、戦意喪失してしまったのではないか。もうなすすべがなかったのではないかと、そう思います」

『母という呪縛 娘という牢獄』の著者、齊藤彩さん『母という呪縛 娘という牢獄』の著者、齊藤彩さん