だからこそ、前提条件の面積を操作して小さくしたりする。分譲マンションは70平方メートルなのに対して、賃貸は50平方メートルといった前提条件にするのだ。

 こうして「持ち家・賃貸はどっちもどっち」という結果を作るのだが、そもそもこんなに面積を変えたら、比較といえるものではない。同様のコラムなどを見かけたら、だまされないよう前提条件の面積に着目してみてほしい。

 生涯コストで賃貸が有利になることは「天と地がひっくり返ってもない」というのが筆者の考えだ。

賃貸物件の家賃は「掛け捨て」
持ち家の住宅ローンは「積み立て」

 また、賃貸物件の家賃は「掛け捨て」だが、持ち家の住宅ローンは「積み立て」であることも両者の大きな違いだ。

 分かりやすくするために、例を用いて解説する。

 Aさんが1億円のローンで購入したマンションにしばらく住み、10年後に売却するとしよう。

 この場合、物件の価値は時間とともに下落するため、1億円のまま売ることは難しい。都区部の分譲マンションの年間下落率は平均1.2%ほどなので、10年後の売却価格は8800万円程度だと考えられる。

 そして、この家に住んでいた10年間で2700万円分の住宅ローンを返済したとすると、残債は7300万円だ。売却によって得た8800万円でローンを完済すると、手元に1500万円が残る。

 このことは実質的に、10年間で1500万円を貯金したのと同じだ。言い換えると、物件購入価格の1.5%(150万円)を毎年積み立てていたことになる。

 加えて、実際はこれに住宅ローン控除の還付金が上乗せされる。

 この税制では、借入額の0.7%相当の還付金が13年間受け取れる。つまり、5000万円の借り入れをすれば、毎年35万円の還付金がもらえるわけだ。夫婦ペアなら、最大年間70万円になる。

 先ほどのAさんが、1億円のマンションを夫婦のペアローンで購入していた場合、1年当たり220万円(150万円+70万円)の資産形成をするのと同じことになる。貯金額は、10年で2000万円を超える。

 これは、普通の貯金ではなかなか難しい水準ではないだろうか。その上、相場が値上がりしたら、その分も積立額にプラスされる。

 アベノミクスが始まった2013年以降、マンション価格は一本調子で高騰し、これまでに70%以上値上がりした。金融緩和によって金利が下がり、不動産に余剰資金が流れているからだ。

 日本銀行の総裁に先日就任した植田和男氏は、この金融緩和を継続する意向を示した。ということは、まだ相場は上がることになる。持ち家取得者は、自らが買った家に住んでいながら、資産形成ができる状況にあるのだ。