コロナ禍で国保加入の被用者にも
特例的に傷病手当金が給付された

 被用者のための健康保険法では、第52条で「被保険者に係るこの法律による保険給付は、次のとおりとする」として、「傷病手当金の支給」が法定給付として明記されている。会社員や団体職員など、正規雇用の労働者は、病気やケガで仕事を休んでも、健康保険で所得保障されることが法律で認められている。

 一方、国民健康保険法では、第58条の2で、保険者(健康保険事業の運営主体である自治体・組合などのこと)は「前項の保険給付(筆者注:出産育児一時金、葬祭費)のほか、条例又は規約の定めるところにより、傷病手当金の支給その他の保険給付を行うことができる」とされている。傷病手当金は任意給付という位置付けで、支給するかどうかは、各保険者に委ねられている。

 そのため、これまで都道府県国保で傷病手当金を給付しているところはなかった。特定業種の国保組合のなかには、制度を設けているところもあるが、医師国保や土木国保など、財源に余裕のある一部の組合に限られている。

 実質的に、傷病手当金は被用者保険に加入している人しかもらえないものだったのだ。その常識が覆され、給付差が埋められたのが、コロナ禍だった。

 国民健康保険は、自営業者やフリーランス、農林水産業者など、個人事業主が加入するものというのが、一般的なイメージだろう。だが、実態は大きく異なっている。

「令和3年度国民健康保険実態調査報告書」(厚生労働省保険局)によると、2021年9月現在、国保加入者の世帯主の職業は、農林水産業2.2%、自営業17.2%、被用者32.5%だ。国保加入者のなかで、企業や団体に雇用されている短時間労働者の割合が大きくなっているのだ。

 正規だろうが、非正規だろうが、雇用されて働いている人の生活の糧は、事業所から支払われる給与だ。病気やケガをして出勤できなくなり、給与がもらえなくなった場合、被用者保険に加入している正規労働者には、傷病手当金が支払われる。だが、国保には傷病手当金の制度がないため、収入が途絶えて、困窮する可能性が高くなる。

 そこで、2020年3月10日、国は「新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策―第2弾―」を発表。国保加入の被用者(非正規雇用の労働者)に対しても、COVID-19に感染したり、感染が疑われたりして、休業することになった場合は、国が財政支援を行うことで、特例的に被用者保険と同様の傷病手当金が給付されることになったのだ。そして、国保加入者への傷病手当金の給付要件は、次ページのようなものとなった。