送検された山上徹也容疑者を取材するため奈良地検前に集まった報道陣送検された山上徹也容疑者(当時)を取材するため奈良地検前に集まった報道陣=2022年7月10日 Photo:JIJI

動機の報道は“過剰”なのか
犯人の言い分や生き方にどう向き合う

 岸田文雄首相に対する襲撃事件の木村隆二容疑者が、安倍晋三元首相を殺害した山上徹也被告の影響を受けたと思われることが、デイリー新潮などで報じられた。

 作家の島田雅彦氏が、自身のインターネット番組で「暗殺が成功してよかった」と発言したこともあって、二つの事件をどのように報道し「テロ」と位置づけることがいいのか、容疑者の動機など「犯人」の言い分や生き方にどう向き合うべきか、という問題が浮上している。

 一部の自民党政治家からは、「報道に『売れる』という以外の価値は感じない」「テロの容疑者の動機を報じることはテロの正当化を助長する」などの声が出る一方で、メディア側は事件の背景や動機を究明することが再発防止につながり、容疑者を犯行に駆り立てたものが何かを正しく知ることが健全な社会を作るには必要なことだとする。

 だが木村容疑者は刑事責任能力の有無を調べる鑑定留置が最近、認められ、真相がまだ十分つかめていない状況だ。この議論、双方ともがどこか上滑りしていないか。

細野議員、「『売れる』というだけ」
テロを正当化するとの批判

 この問題が議論になる直近のきっかけになったのは、自民党の細野豪志衆議院議員が、4月20日に岸田首相襲撃事件の報道についてツイートしたことのようだ。

 細野氏は、事件に関する報道について、「岸田総理を襲撃した男の人物像、テロの動機についての報道合戦が始まった。私はこれらの報道に『売れる』という以外の価値を感じない」「テロ行為がなければ、男の政治や選挙制度に対する不満(単なるわがまま)を人々が知ることはなかった。テロにより目的の半分を達成したと言えるかもしれない」とツイートした。

 そして「今度こそ、24歳の男がどんな境遇にあろうが、テロ行為にどんな理由があろうが同情の余地がないことをマスコミは報じるべき」とした。

 これに対して、孤独・孤立対策に取り組むNPOの代表者らから、「犯行に至った経緯を解明し必要に応じて社会的アプローチを検討することは必ずしもテロ行為に正統性を与えるものではない」等の反論が広がった。

 だが細野氏は、「私はテロを起こした時点でその人間の主張や背景を一顧だにしない。そこから導きだされる社会的アプローチなどない」と断じ、安倍元首相銃撃事件の後、作られたカルト被害防止・救済法についても「本当に正しかったのかどうか検証が必要」とも主張している。

 犯罪者の人物像や動機などを報じたりすることに否定的な声は、別の自民党議員からも出ている。

岸田首相襲撃事件では風向き変わる?
曖昧さ残る木村容疑者の動機

 テロやその容疑者に対して、もっと突き放した態度を取るべきだという、こうした声が、安倍元首相の銃撃事件のときと比べると強まっている印象は筆者も感じる。

 岸田首相の事件で、風向きが変わったようにみえるのはなぜか。