起こるのは、
新たな知性の定義と役割分担

 こうした現状から考えても、いつかほんとうのシンギュラリティが来ることは確実でしょう。それがたとえ2045年から数十年単位で前後したとしても、人類の歴史においては誤差に過ぎないほどの一瞬と言えます。

 囲碁や将棋もそうですが、さまざまな領域では、領域外の人にとっては理解することが困難なほど専門性が高度に発達しています。専門性の高い人が集まって、協調し、偉大な進歩を遂げてきました。この専門性の高いチームの一員に、AIという新しい仲間が加わったのです。

 これからの時代は、専門的な領域を「人類が解いているのか」「AIが解いているのか」という区別は、もはや意味を持たなくなります。

 天気予報を例にするとイメージがつきやすいかもしれません。

 ぼくらがテレビで見ている気象予報士は人類です。適切な知識を身につけた人がぼくらにとってわかりやすく、天気予報を解説してくれています。

 ただ、明日の天気、明後日の天気という未来予測をしているのは、すでにコンピュータなのです。各地のセンサーから集まる情報を読み込んだスーパーコンピュータが、シミュレーションソフトウェア上の地球を細かく解析して、かなり精度の高い未来予測を行います。それを天気予報として、気象予報士がわかりやすく伝えてくれているのです。

 この現状に対して、「天気予報が人類の手を離れてしまった」と悲しんだことがあるでしょうか。むしろ「正確になった」と喜んでいるはずです。

 こうして人類とAIの協業や適材適所は、徐々に進んでいきます。これまでも今後も、人類の知性の役割は、機械にできないことを補完することです。シンギュラリティは起こるけれども、それは「新たな役割分担の発生」だと言えます。