最初に変わるのは
人類の学習方法

 その前提で、ぼくら人類がAIの進歩にどのように適応していくかを想像していきましょう。

 シンギュラリティに至る過程でAIの進歩に追従してなにが変わるのかというと、人類の強みである「探索と学習の柔軟性」を活かした変化が自然に起こります。

 具体的には、人類の学習プロセスが変わっていきます。

「AlphaGo」をはじめとするAIが登場して、人類がAIから学ぶようになり、藤井聡太棋士のような新世代の棋士たちが誕生しました。ぼくら人類はこれまで、強くなるには過去の名人たちの棋譜から勉強するほかなかったわけですが、それに加えて、これからは名もない小学生であっても「名人より強いAI」と対局する機会を得ることが可能になったのです。

 大規模言語モデルのようなAIが登場したことによって、棋士たちと同じ機会が今後、「考える仕事」を担うすべての人に与えられる土台が整ったとも言えます。

 使い方としては、検索の代わりの手段として「AIに質問を投げ回答を得る」という目的だと、得られる恩恵は限定的です。AIの回答の質は、ぼくら人類の入力次第で決まります。

 たとえば、ブレスト相手(自分の知っている知識同士をつなげるヒントをくれる)としての役割は、いままでの機械が担えなかったものです。能動的に成長したい人にとっては、これまで上司とやってきた面談で得ていたような気づきのかなりの部分を、AIとの対話を通して得ることができます。

 AIのデータベースにある答えを引き出す、といった使い方だけではありません。考えたい事柄について問いを深められる質問を「ぼくらがAIに尋ねる」のではなく「AIからぼくらに投げかける」ように依頼すれば、自分のなかにある答えや新たな気づきを引き出してもらえる、といった使い方もできます。

 ほかにもAIに適切な情報を与えたうえで、アイデアのたたき台を作成してもらったり、要約してもらったり、自分に抜けていた視点を補完したり、さまざまなコンテンツを造ったり、ニーズにあった応答を無数に生成してくれます。

 このように学習プロセスが変化するというのは、「人間が成長するための方法が増える」ということですから、大きな変化です。

 いままでは幅広い知識、技能、経験などを持っていなければ専門家にはなれませんでしたが、今後はAIの助けを適切に得る能力を身につけていれば、専門領域の一部の知識、技能、経験しか持たない人でも、それを生かして活躍しやすくなります。

 結果として、あらゆる領域が細分化され、高みを目指すスピードが飛躍的に加速していきます。逆に言えば、従来の「これをやっておけば大丈夫」という慣習が通用する時間的スパンが徐々に短くなることを意味します。収穫加速の法則でテクノロジーの進歩の速度が上がるのに従い、人類自身の学習方法もどんどん変化していくのです。