トレンドが激しく移り変わるいま、時代に左右されない「モノが売れる原理」が必要とされている。そんなマーケティングの「そもそも論」を徹底的に掘り下げたのが、博報堂やボストン コンサルティング グループで活躍してきた津田久資氏による最新刊『新マーケティング原論』だ。
「マーケティングを科学する第一歩」(冨山和彦氏)、「これこそ『クリティカルに考える』ということ」(デービッド・アトキンソン氏)など各氏の称賛を集める同書では、4Pや3C、ブルーオーシャン戦略や破壊的イノベーション戦略など、おなじみのツールや理論が「そもそもなぜ有効なのか?」という部分も含めて、きわめてわかりやすく解説されている。まさに「考えるマーケター」のための教科書だ。
本稿では、同書より一部を抜粋・編集し、「商品のパフォーマンスを左右している3つの要素」をご紹介する。
「機能性パフォーマンス」とはなにか?
商品が持っている属性が、買い手にとっての価値を生み出します。これが商品の「パフォーマンス」です。
ところで、より細かく分解するならば、商品のパフォーマンスは、大きく3つの要素によって決定されています。
たとえば、工具のキリを購買する人は「木材などに穴を開ける」という目的を持っています。そうした買い手にとっては、「木材などに穴を開けることができる」というキリの機能こそが、この商品の価値の源泉になっています。このように、商品が持つ物理的な属性によって生み出される価値を機能性パフォーマンスといいます。
電動ドリルもまた同様に、「木材などに穴を開けられる」という機能性パフォーマンスを持っており、しかもそれはキリよりも高度なパフォーマンスだと言えます。また、ハンドバッグであれば、ものを入れて持ち運べることが機能性パフォーマンスの中核になります。
これらはすべて、買い手にとっての利便性が価値を生み出しているケースだと言えるでしょう。そして、たいていの場合、機能性パフォーマンスを生み出す属性は、定量化(数字で表現すること)が可能です。
「情緒性パフォーマンス」──心地よさ
一方で、同じハンドバッグであっても、それがブランドもののバッグであれば、その価値の源泉をバッグとしての機能だけに求めるわけにはいきません。そのブランドバッグを所有していることで「誇らしい気持ちになれる」「おしゃれな人に見える」という点もまた、この商品の大きな価値だからです。
商品のブランドやデザインといった心理的な属性が生み出す価値のことを、情緒性パフォーマンスといいます。これらにおいては、買い手にとっての「心地よさ」が価値につながります。そのため、どこまでも定性的なものであり、機能性パフォーマンスのように数字で表現することができません。
エルメスのバッグや、パテックフィリップの腕時計のなかには、正規店の店頭には並んでおらず、非正規店で定価の2倍以上の値がついているようなものがあります。これは、商品の希少性が「私しか持っていない」という優越感につながるからです。情緒性パフォーマンスの高さが価格にも反映されている例だと言えるでしょう。