トレンドが激しく移り変わるいま、時代に左右されない「モノが売れる原理」が必要とされている。そんなマーケティングの「そもそも論」を徹底的に掘り下げたのが、博報堂やボストン コンサルティング グループで活躍してきた津田久資氏による最新刊『新マーケティング原論』だ。
「マーケティングを科学する第一歩」(冨山和彦氏)、「これこそ『クリティカルに考える』ということ」(デービッド・アトキンソン氏)など各氏の称賛を集める同書では、4Pや3C、ブルーオーシャン戦略や破壊的イノベーション戦略など、おなじみのツールや理論が「そもそもなぜ有効なのか?」という部分も含めて、きわめてわかりやすく解説されている。まさに「考えるマーケター」のための教科書だ。6/29(木)には、津田氏による刊行記念セミナーの開催も決定している(リアル+オンライン配信。詳細はこちら)。
本稿では、同書より一部を抜粋・編集し、「そもそもマーケティングとはなにを目標とした活動なのか」をご紹介する。
マーケティングの「目標」とはなんだろう?
前回の記事では、筆者が考える本書なりの「マーケティングの定義」をご紹介しました。
マーケティングとは「一定費用の下で、適切な買い手群にとってよりコストパフォーマンス(CP)の高い商品を生み出し、その存在を認知させ、その内容を理解させ、これを送り届けることによって、粗利を最大化する総合活動」である。
一読しただけでは意味がつかみづらいところがあると思いますし、なぜこれがマーケティングの「原理」だと言えるのかがわかる人もほとんどいないと思います。そこで今回は、例の定義について「なぜそうだと言えるのか?」の部分をお伝えしていくことにしましょう。
あれこれと挿入句が入っているので、ややこしく感じるかもしれませんが、いちばんシンプルに考えてみましょう。中間に入っているあれこれをすべて脇に置けば、この定義は「マーケティングとは……粗利を最大化する総合活動である」というかたちに変換できます。今回はこの部分に絞って考えていきます。
企業が目指す「利益」の構成要素は?
マーケティングの定義には「目標」が必要です。なぜなら、マーケティングとはなんらかの「行動」であり、その良し悪しを評価するうえでは一定の目標が欠かせないからです。では、マーケティングは、なにを目標に行われるのでしょうか?
マーケティングが企業活動の一部である限り、その目標は「企業の目標」の一部であるはずです。では、企業活動の最終目標はなにか? もちろん経常利益です。
経常利益は「営業利益」と「営業外利益」から構成されます。
営業利益とは、企業が本業によってつくり出した利益のことです。ここで言う本業というのは、商品を販売する行為のことですから、営業利益=販売行為から生じた利益と言ってもいいでしょう。一方、営業外利益には、受取利息や配当などが含まれます。なお、本書では商品という言葉を「製品」と「サービス」の両方を含む言葉として使っていますので、ご注意ください。
このうち、営業利益のほうをもう少し細かく分解してみましょう。
企業が本業によって上げる利益(営業利益)は「売上ー費用」によって算出されます。しかし、「費用」とひと口に言っても、いろいろなものがありますよね。まずだれもが思いつくのが直接原価です。製品をつくったりサービスを成立させたりするための費用ですね。これは「売上原価」とも呼ばれます。
直接原価にも2種類あります。たとえば「製造設備の減価償却費」のように、製造数量に比例せず一定額がかかるのが固定費です。研究開発費や製造部門の人件費などもここに含まれます。
逆に、製造数量に比例するのが変動費です。いちばんイメージしやすいのは、メーカーにおける材料費や電気代などでしょうか。
ところで、売上から直接原価を差し引けば、その企業が上げた純然たる利益がわかるかというと、そんなことはありません。「売上ー直接原価」で算出されるのは売上総利益と呼ばれます。
営業利益を出すには、ここからさらに別の費用を差し引かねばなりません。それがいわゆる販管費です。
販管費は、販売費と一般管理費とから成ります。販売費とは、商品を企画・実現し、買い手に知らせて理解させ、届けるための費用のことです。広告や宣伝にかかったお金のほか、営業マンの人件費などもここに含まれます。
他方で一般管理費とは、その商品にかぎらず、会社全体にかかった費用のことです。人事・総務・経理などの人件費、役員報酬などが含まれてきます。これらは直接原価と対比するなら、「間接的な」費用だと言え、いずれも「固定費」としての色合いが強いことがわかると思います。