「個」のコーディネートで総合力をデザインする

──デザインが製品開発の大きな部分を担うという変革に、他部門からの反発はありませんでしたか。

 もともとエンジニアリングが強い風土ですから、やはり反発はありました。ただしLIXILの場合、経営トップの瀬戸(瀬戸欣哉・社長兼CEO)が「ブランドとデザインをグローバルな成長戦略の中核に位置付ける」というメッセージを明確に打ち出していることが、大きな後押しになっています。また、デザインの企業活動としての重要性について、トップから現場レベルまで繰り返し述べています。

──とはいえ、現場レベルでの理解は容易ではないように思えます。開発の実際に、デザインはどのように浸透していったのでしょうか。

 メーカーの生命線はものづくりですから、立場はどうあれ、根っこに「いいものが作りたい」という思いがあります。研究者や開発担当者、さらには工場の生産技術者まで巻き込んで侃々諤々やっているうちに、自然に理解が進みました。デザイン中心ということに対して、最初は抵抗があっても、できた商品が世の中に認められると作り手としてのモチベーションは上がります。そうなると「あれもこれもデザインに頼もう」という空気になっていく。現場の実感と経営層のビジョンがリンクしていくのです。

──「次世代カーポート」として注目され、多くの賞を受賞された「LIXILカーポートSC」(2017年発売)は、こうした改革の成果の一つでしょうか。

 まさにそうで、私がデザインを担当したものの中でも象徴的な商品だと思います。見た目は究極にシンプルですが、それを実現するために高度な技術を駆使していて、改革のパワーを存分に発揮できました。住宅に美しく調和し、車が主役になる。既存のカーポートとは一線を画したデザインを、多くのユーザーに評価していただいています。

個を高めて調和を生み出す、「総合力」としてのデザイン©LIXIL

──住宅設備は個々の商品の専門性も重要ですが、それらを「住まい」として調和させる視点も重要ですね。

 LIXILは、家本体こそ建てないものの、住宅関連商品をほぼカバーする世界でもユニークな会社です。こうした商品群の価値を高めるためには、多種多様な商品が1軒の家に統合された姿を思い描くことが大事だと思います。

 そこで、家のコーディネートを丸ごと提案する「Design Style(デザインスタイル)」という活動にも取り組んでいます。和を爽やかに解釈した「KINARI MODERN」、ビンテージ感のある「INDUSTRIAL A」などの多彩なスタイルと、そのスタイルに調和するアイテムを提案しているのです。窓や玄関、バスやキッチンはもちろん、宅配ボックスやドアの取っ手まで、全てLIXIL製品でコーディネートしています。

──スタイルそのものもデザイナーが開発するのですか。

 そうです。ここにもデザイナーの「かくあるべし」という理想の姿から発想する力が発揮されています。最初にハウジング、ウォーター両部門のデザイナーが集まって全体のポートフォリオを議論し、方針が決まればスタイルごとにアートディレクターが監修しながら個別のデザインを進めます。

 LIXILはそもそもの成り立ちとして、トステム、INAX、新日軽、サンウエーブ工業、東洋エクステリア、さらには米国のAmerican Standard、欧州のGROHE(グローエ)と、それぞれ長い歴史を持つ会社が集まって生まれました。これらのカルチャーを引き継いだ多彩なブランドが社内に共存しているので、総合力をデザインで示すことにも力を入れています。

個を高めて調和を生み出す、「総合力」としてのデザイン©LIXIL