デザインの価値を教えてくれるのは「現場の声」
常務役員
LIXIL Housing Technology 商品開発・デザイン本部長
デザインセンター長兼任
2014年、LIXIL入社。ハウジングテクノロジー事業のデザイン部門責任者として活動しながら、2019年にビジネスインキュベーションセンターの企画と設立を行い、新規事業立上げを推進中。21年4月よりハイエンドブランド『NODEA』を発足し、事業責任者として運営にも携わる。23年4月より、商品開発の推進、デザイン、新規ビジネスを束ねた商品開発・デザイン本部を発足。イノベーションとデザインを事業につなげる活動を進行中。
Photo by ASAMI MAKURA
──デザインの価値を客観的に示すために工夫されていることはありますか。
こだわっているのは「できるだけ数値化しない」ことですね。デザインに関しては、あえてKPIを設定しないようにしています。売り上げは大事な指標ではありますが、営業、マーケティング、広告などの要素が複合的に絡み合った結果ですから「デザインの貢献は何%」などと特定できるわけではありません。結局、確かなものは市場やユーザーの声しかないのです。
──しかし、経営からは数字を求められませんか。
LIXILの場合、経営トップ自らデザインの価値を重視しているので、ことさら数値化を求められることはありません。また一般論としても、経営者の役割は、数値化できないものを価値判断することではないでしょうか。90点と80点のどちらがいいかは小学生でも判断できます。
もちろん、価値観や未来像を共有するためのコミュニケーションには力を入れています。デザインの視点で未来の住まい像を描いた「アドバンスデザイン(先行デザイン)」を定期的に発表しているのもその一つです。ここでは担当デザイナーが経営トップ層と直接意見を交わします。
──これからのデザイナーに求めるものは何でしょうか。
LIXILのパーパスは「世界中の誰もが願う、豊かで快適な住まいの実現」です。そのために社内のデザイナーチームに意識してほしいこととして二つのことをよく話します。一つは「視点を上げる」こと。国内だけでなく、常に世界を見てほしい。もう一つは「スタンダードを上げる」こと。住まいのデザインは、長く接するほどに満足度が高まるのが理想です。装飾的なデザインや、トレンドを追ったデザインが駄目とは言いませんが、やはり最終的には、価値の水準そのものを引き上げる本質的なデザインを目指すべきだと思います。
LIXILの商品は「図と地」でいうと「地」です。言い換えると「背景を追求したもの」となるでしょうか。「羽賀豊デザインの壁!」みたいな強い主張は誰からも求められませんが、背景のクオリティーをとことん突き詰めれば、家全体のクオリティー向上に寄与できる。制約も多い領域ですが、専門性に向き合いながら、空間全体としての完成度をいかに高めていくか、という問いは追究しがいのあるものではないでしょうか。