実績があるから…権威があるから…周囲が勝手に「守る」

 スケールはだいぶ異なるが、「わいせつ教師」もこれとよく似た手口を使う。

 最もわかりやすい事例は、西日本新聞(16年7月21日)が報じた、九州のある公立中学校の50代(当時)のわいせつ教員だ。

 この教員は顧問をしている部活の終わりに、女生徒を「ドライブしよう」と誘い、人のいない場所に連れこんで、体を触りキスをした。女生徒が友人に打ち明けたことで発覚して、女生徒と親のもとには教頭などがきて、本人も反省していると謝罪をした。しかし、翌日その顧問は耳を疑うことを言い出す。

「励ますために肩や太ももに触れたかもしれないが、わいせつ行為はしていない。辞めるつもりもない」

 この顧問は急に開き直って、教育委員会の聞き取りにも、PTAの集まりでも「潔白」を主張したのだ。生徒指導に熱心で、荒れていた学校を立て直したという顧問の実績も影響して、大人たちはみな顧問を信用した。結果、顧問は自宅謹慎にすらならなかったという。

 自宅や合宿所で何十人もの未成年者を毒牙にかけながらも、「日本の男性アイドル文化をつくった実績」で、なんの罪に問われることもなかったジャニー氏とまったく同じ構図だ。

 そこに加えて、ジャニー氏の性犯罪がここまで表沙汰にならなかったのは、(3)の<周囲に権威に弱い人々が多いので、味方になってくれる>ということも大きい。

 ジャニー氏が自分自身で積極的に被害者の口封じをしていたとか、証拠を隠滅していたという話はこれまで出ていない。むしろ、周囲のジャニー氏に心酔している人たちが、「あのジャニーさんがそんなことをするわけがない」と心強い味方になってくれるのだ。

 そういう援護射撃の代表が、被害者への誹謗中傷だ。ジャニー氏が性犯罪などしていないという風にもっていくには、「被害者が消える」ことが望ましい。だから、ジャニー氏やジャニーズ事務所に心酔している一部ファンは、全力でジャニー氏の性加害を告発した男性たちに対して、「売名もいい加減にしろ」「高齢で車椅子生活のジャニーさんがそんなことできるわけがない」なんて感じで、全力でつぶしにくる。

 これは「プチ・ジャニー氏」である「わいせつ教師」のケースでもよく見られる「あるある」だ。

 例えば、先ほどの九州のわいせつ事件でも、被害者である女生徒は、わいせつ教師に心酔する保護者らから「うそつき」「ミニスカートで学校に来ていた」「男をたぶらかす子」などと誹謗中傷を受けたようだ。

 日本の親の中には、「教師」という権威に弱い人も少なくない。そんな親たちは、教育者が裏で何か悪いことなどやるわけがない、子ども側がうそをついているに決まっている、と思考停止してしまう。そして、「憎悪」を被害者へ向ける。

 この件でも、熱心な保護者が、女生徒が通う塾にまで押しかけて「(うそだったと)白状しなさい」と詰問したという。わいせつされるは、うそつき呼ばわりされるはで、失意に陥った女生徒は顧問が恐ろしく学校にも行けず、リストカットを繰り返したという。