人生100年時代、お金を増やすより、守る意識のほうが大切です。相続税は、1人につき1回しか発生しない税金ですが、その額は極めて大きく、無視できません。家族間のトラブルも年々増えており、相続争いの8割近くが遺産5000万円以下の「普通の家庭」で起きています。
本連載は、相続にまつわる法律や税金の基礎知識から、相続争いの裁判例や税務調査の勘所を学ぶものです。著者は、相続専門税理士の橘慶太氏。相続の相談実績は5000人を超えている。大増税改革と言われている「相続贈与一体化」に完全対応の『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】 相続専門YouTuber税理士がお金のソン・トクをとことん教えます!』を出版する(発売は5月17日)。遺言書、相続税、贈与税、不動産、税務調査、各種手続という観点から、相続のリアルをあますところなく伝えている。

「いらない土地」の放置は超危険! 法律改正で罰則ができましたPhoto: Adobe Stock

「親から相続した土地」にも要注意!

 2024年4月1日より相続登記が義務化されます。「これから相続する人の話でしょう?」と思われている方が多いのですが、残念ながら、過去に不動産を相続して名義変更をしないまま放置しているすべての人が、罰則の対象になる予定です。

 これまで相続登記には、期限や罰則はありませんでした。そんな相続登記が、この度、なぜ義務化されることになったのか、その背景には所有者不明土地が増加していることがあります。

 国土交通省の地籍調査(平成28年度)によると、この所有者不明土地は、面積でいうと410万haに相当し、九州の土地面積(368万ha)を超えています。高齢化によって、死亡者数が増加すると、今後この「所有者不明土地問題」はますます深刻化することが予想されます。

 こうした背景から、所有者がわからない土地を増加させないための施策として、この度、相続登記が義務化されることとなりました。

 2024年4月1日以降、義務化された後のルールは「相続(遺言も含みます)によって不動産を取得した相続人は、その所有権の取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならない」「このルールに違反すると10万円以下の過料に科される」と意外とシンプルです。

 ポイントは、「故人の死亡した日」から3年ではなく、遺産分割協議で不動産を取得した場合は、遺産分割が成立した日から3年以内に申請する点です。

こんな人は、今すぐ手続をすべき!

 なお、義務化が始まる前に相続が開始した方で、現在、相続登記を済ませていない人も対象になります。ただし、義務化が始まる日(2024年4月1日)から3年以内に相続登記を行えば、過料は科されません。相続登記未了の不動産がある場合は、早急に着手しましょう。

 相続登記の義務化に伴って、3年以内に事情があって相続登記ができない場合の対策として「相続人申告登記」が新設されます。

 登記上の所有者が亡くなっているが、相続人間で遺産分割の話し合いがまとまらないなどの事情があり、相続登記を3年以内に申請することができない場合に、「登記上の所有者が亡くなった旨」「自らが相続人である旨」を法務局に対し、申し出る制度です。この申出をすることによって、3年以内に相続登記の申請義務を履行したものとみなされ、10万円以下の過料を一時的に免れることができます。この申出を受けると法務局の登記官が職権で、申出をした人の氏名および住所等を登記します。

 このとき、通常の登記とは異なり、持分の記載はされません。この相続人申告登記は、相続を原因とする所有権の移転登記ではなく、あくまで「報告的」な仮の登記です。つまり、相続人申告登記をしただけでは、売却等はできません。この制度は、相続人のうち1人が相続人申告登記をした場合であっても、その効果は他の相続人まで及びません。1人ずつ申出をする必要があり、申出をした人ごとに登記簿に記載されていきます。

(本原稿は橘慶太著『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】』から一部抜粋・編集したものです)