「人生は選択の連続である」と言う人がいるが、本当にそうだろうか。人生は「選ばれないこと」の連続ではないか。この春、「選ばれなかった」ことをテーマにした書籍『あの日、選ばれなかった君へ 新しい自分に生まれ変わるための7枚のメモ』(阿部広太郎)が刊行され、話題になっている。
著者であるコピーライターの阿部広太郎氏が、兄のように慕う先輩である出版社「ひろのぶと株式会社」の田中泰延氏と熱くおもしろいトークを繰り広げた。5月2日に東京・下北沢のB&Bで行われたトークイベントから、一部を再構成してお届けする。

「仕事と私、どっちが大事なの?」に対する正しい答え方とは?Photo: Adobe Stock

「選ばれない」のもつらいけど、「選ぶこと」も実はつらい

阿部広太郎(以下、阿部) 最近は経営のお仕事をされていて、これまでのような「書く」こと以外のお仕事も増えてきているんじゃないですか。

田中泰延(以下、田中) そう。でも本当に自分のやりたいことは、書くことなんですよ。書きたいっていうか、書かなくちゃいけない。休日は書ける! 多分、メイビー、パハップス、プロバブリー、書けるはず。

阿部 新作ですかね。

田中 新しい本の一部で書いてないのを…。あとね、1年半ぐらい待たせているやつとかもある(笑)。もうええかげん書かないと。やばいやばい。

阿部 会社員の時も、「書く」や「考える」に追いかけられていたと思うのですが、どうやって乗り切っていましたか?

田中 僕、ちょっと卑怯なところがあって、まっすぐ広告でアイデアを競ったり、仲間内で勝ったりとか、そういう「自分の企画をどうしても通すまで、面白いこと思いつくまで」っていうのから、逃げちゃったんだよね。これはいろんなところで話しているんですが、よくデキる他の人に、「面白い、最高、それでオッケー!」って言うようになっちゃったの。

阿部 それはひろのぶさんの中で、本当に面白いと思った時にだけ言っていたということですよね?

田中 それはそうなんだけど。

阿部 だとすると、それってすごい大事な存在じゃないですか?

田中 でもさ、会社に任命されて「あなたは名選手だったから、監督になりなさい」、つまり「クリエーティブディレクターになって判断を下しなさい」という役職になったわけじゃなくて、勝手にやってるんだもん。こんな卑怯な話ないよ。

阿部 いやいや。クリエーティブセレクターですよ。

田中 でもね、「自分が戦う」ということを放棄したのね。阿部さんに逆に聞きたいのは、阿部さんは毎日の自分の広告の仕事もあるじゃない? なのに、その中で「企画メシ」を始めて、自分がそれまでやってきた経験を伝えて若い人たちに企画を教えたり、今度はまた選ぶ側に立つって、けっこう厳しい道じゃないですか?

阿部 厳しかったですね。自分が企画する仕事を通じて変われたと思えた感覚を、みんなと分かち合っていきたい、企画する人を増やしたい、そんな思いで2015年から始めたんです。その時に直面したのが、講座の特性上、数十人に絞らなければならなくて、エントリーいただいているのに、お断りしなくちゃいけないということ。かつての自分自身を切るような感覚は未だに引きずってますし、しんどい経験ですね。

田中 しんどいでしょう。

阿部 「こういうことだったのか!」と思ったんですよね。たくさんの人たちの中で見つけられるというのは、選ばれる理由があったんだなと。自分も一生懸命やっていて選ばれなかったけど、それは何かが惜しかったんだなと、本当に痛感しましたね。

田中 多分俺にポテトを揚げさせてくれなかったあの店長も、「こいつに揚げさせてやりたいけど、まだちょっと手付きが良くないんだ」みたいなところが、たぶんあったと思うの。

阿部 ひろのぶさんは、ポテト係じゃなくて接客のお仕事されてたんですか。

田中 僕が最初にやらされたの、これ、覚えてください。パテを鉄板に当てて押すのを「シアー」って言うんですよ。こればっかりやらされてました。力があるからでしょうかね。

阿部 お肉の焼き加減とか上手になったりするんですか?

田中 なります(笑)。

阿部 ポテトの話になっちゃったんですけど(笑)。必ず見てくれている人がいて、「選ぶ、選ばれない」のその時に、本当は話したがっていたりとか、伝えたかったりするんだよなと思います。きっとひろのぶさんも、一緒に取り組む人を選ばなくちゃいけない時とかもあったりしますよね。

田中 これがねぇ、会社を辞めて自分で会社を始めると、「こんなに毎日選ばなくちゃいけないのか!」と衝撃を受けますね、右か左か、毎日数十個はチョイスしないといけないんですよ。お金を出すか、出さないか、払うか、払わないか、来た話を断るか、断らないか。全部、決めなあかんの!

阿部 それ、本当に大変ですよね。

田中 昨日、事務所の引っ越し決めたからね。

阿部 おめでとうございます。すごい。大きくなるんですか?

田中 見に行った物件の近くに住んでる社員が1人いて、誰とは言わないけど加納さんが強力に「ここがいい!」と言ったから(笑)。経営って、選んでも、じゃあ3年後どっちに運命が行くかはわからないんすよね。やったことが大失敗で1億円の損失を生むかもしれないし、1億円の儲けになるかもわからない。でも、今日選ぶんですよ。それはもう全く結果がわからない。

 あと、やっぱり「やらないこと」を選ぶのも大きくて。「あれもやりたい」「これもやったら、ひょっとしたら商売としていいかもしれない」「これもやったら伸びる事業かもしれない」と、全部やってたら絶対パンクするから、「うーん、じゃあそれはやらない」という、この「やらない」を選ぶことのほうが、やることを選ぶよりもずっと辛いですね。だって、夢を自分で断つわけだもん。

阿部 そうですよねぇ。

田中 俺は出版社をやってるけど、本当はふわふわしたチーズケーキとかも売りたいの。「ひろのぶおじさんのチーズケーキ」みたいな。

阿部 食べたいです(笑)。

田中 でも、まずは本を作れやっていう話だから。ひろのぶおじさんのチーズケーキはいつかやるよ。焼印も押す。押しますけど、今は選べない。あとは、やっぱり選ぶ、選ばないで言ったら人事ですわ。去年募集した時には、30人近くの人が応募してくださったけど、来ていただいたの2人でしょ。みなさんには「なぜあなたじゃないのか、ごめんなさい」っていうメールを…阿部さんの本で感動的なのは、企画メシで落としたはずの人がその後メキメキとやる気を出して、自分のやるべきことを見つけて、勝手なプロジェクトを立ち上げて、「勝手な」と言ったら怒られるけど。そして、その結果を阿部さんにお手紙で書いてくる。これは感動するよね。

阿部 そのまま書籍に載せていて、何度読んでも涙腺が…。選ぶ、選ばれないとか、ご縁がある、ないで関係が途切れてしまうのがいやで、メールを送る時に「今回は難しかったですけど、でもお会いしたいです」と、すごく自分勝手だなと思いつつも、会う機会を設けさせていただいて。それで、縁が繋がって、その先でその人たちが頑張って、自分たちの企画を形にしていったところを見させてもらった時は、本当に感動しましたね。大切な時に、定型フォーマットみたいな文章じゃなくて、伝えられることがあるんだなと思いましたね。

田中 そうね。それを定型でやってると、その次の人生が自分にもなくなっていくんですよね。丁寧にね、こちらも断腸の思いもありつつっていうのを伝えると、その人とまた絶対つながるよね。

阿部 離れる時や別れる時、何かが一区切りつく時、言葉を尽くしたり、丁寧に感謝を伝えたりするのは、当たり前のことなんですけど、超大事だなと感じました。その先でまた再会できるかどうかは、別れ際にかかっているなと思いましたね。

田中 阿部さんは言葉を尽くすんだよね。言葉を尽くす人って言葉を道具と思ってないからだと思うんですよ。