本作りで欠かせない工程が「装丁」である。
カバーをデザインすることは、本の顔を作ることでもある。
『あの日、選ばれなかった君へ 新しい自分に生まれ変わるための7枚のメモ』(阿部広太郎)の装丁を行ったのは、人気デザイナー・鈴木千佳子。
彼女は何を考えて、書店で手に取ってもらえる本を目指したのか?
著者の阿部広太郎との対談で浮かび上がってきたものとは?
(取材・ダイヤモンド社/亀井史夫 撮影・小島真也)
つらいときほどアイデアが出てくる
鈴木千佳子(以下、鈴木) 私、第6章「『選ぶ側」にまわってしまったら」もとても印象に残ってます。
阿部広太郎(以下、阿部) 第6章は「『落とす方』だって本当はつらい」というサブタイトルも付けていますが、「選ぶ」というのは本当に大変なんですよね。つらいです。
鈴木 そうですよね。この中で、阿部さんの講座の募集に落とされた方の話が出てくるのですが、でも、ちゃんと落とされた方を、阿部さんの文脈の中に取り込んでいらっしゃるから、それはすごいことだなと思いました。
阿部 そこで関係性が終わらなかったというのが一つ救いではあって。普通だとやっぱり、そこでスパッと切れちゃうことのほうが多いし、そうなってしまうこともありました。自分勝手かもしれないけど、つながらせてほしいって気持ちはあったんですよね。
鈴木 この本を読んでると、そういうときにすごくアイデアが出てきますよね。
阿部 ああ、そうかもしれないですね。ヤバいときとか、つらいときとか。
鈴木 そのまま放置しない。じゃあ具体的にどうするのってところにけっこう阿部さん独自のアイデアがある。多分、自分だったら、やっぱりちょっとつらいなと思ったとこで終わってしまうように思います。
阿部 そこで終わらせないというか、本当に……粘り強いという一言で片づけたくないほどに、何かできないかなってずっと考えちゃう習性なんです。「コピーライター向いてないかも」と言われたときもそうですし、ちょっと難しいというとき、何かできないのかなって、そういう体質になっていったのかもしれないですね。
鈴木 いつも阿部さんって、決めたぞと思って自分の道を決めてらっしゃるんですか。
阿部 この本でいうと、叶わなかったですけど国立大に合格したいとか、コピーライターになりたいとか、決めるぞというよりは、自然とそういうマインドになっている。成り行きの中で人と会ったり、話したり、約束してしまったりとか。そう、約束を果たしたいって気持ちが強くて。その約束というのが……すごく不思議で、駆け出しのときに「コピーライターになりたいんですけど、コピーを見てもらえませんか」ってお願いしたとき、それは約束だと思うんですよね。なりたいって自分があのとき、ポロッとでも言った、その約束をかなえたいという気持ちがどんどん強くなっていくタイプかもしれないです。最初から「もう絶対!」というより、だんだんだんだん気持ちが強くなっていく。今聞いていただいて、そう思いましたね。
鈴木 そうですね。「自分とは違って、ちゃんと決めてるな」って思いながら読み始めたんですけど、読み進めていると、「いや、そんなこともないな」と。
阿部 そうなんです、かなり揺れてるんです。流されていたりもするし、途中で辞めてしまうこともある。本当に10代の頃はコピーライターになるなんて一度も考えたこともなかったので、それぞれの中で自分らしく流れていく、それが今な気がしますね。だから、選ぶ・選ばない、選ばれる・選ばれないとか、その中で軌道修正して、行き先を指し示してくれているとも言えます。選ばれないことは何もネガティブなことではないと思います。
鈴木 そうですね、確かに。1回決めつけてみるというのもいいですね。
阿部 どうやったら勝てるのかとか、どうやったら選ばれるのかは、本屋さんに行ってもそういう本がたくさんありますよね。もしダメだったときにどうするかって、先輩に「ドンマイ」とか「次があるよ」とか言ってもらうこともあるんですけど、選ばれないときにどうすればいいか、どうやったら再出発できるかを、もうちょっと言葉にしていきたいという気持ちがあって。今回、選ばれないときでも、それが必ず次につながるということを自分なりにちゃんと深掘りできたと思っています。
鈴木 そうですね……選ばれてることのほうが実は少ないですよね。
阿部 そうなんです。賞を獲ったり選ばれたり、何かのMVPになってたりする人って、注目されるんだけど、でも、それは一部でしかない。鈴木さんがおっしゃってくださったように、選ばれないことのほうが広いし、豊かだし、そっちにスポットライトをもっと当ててもいいよねと。「阿部さんの輝かしくない話がこんなにも本に書いてある」というふうにツイートしてくださった方がいて、「輝かしくない過去」の話が実はエネルギーを持っているというのは発見でした。