選択に迷った時にどちらを選ぶか?
質問者3 人生は選ぶことと選ばれなかったことの連続だなと本を拝読して改めて思いました。そこで、お2人の人生で、これまで何かを選ぶ時に指針としていることや感覚、これだけは譲れないということをお聞きしたいです。
阿部 自分の物差しというか、大事にしている感覚ですと、よく最近だと、「迷ったらおもしろいほう」「刺激的なほう」とか言われたりしますよね。僕はいつも納得感を大事にしています。選ぶ時に、より納得できそうなほうはどちらか?ということですね。
この先で自分が振り返った時に、「ああしてよかったな」と納得できるかどうかを考える。そして何よりも、今の自分自身がこの人と新しいことをやることに対して、自分が納得できるかどうか。納得感がそこにあるかは、いつも自分に問うようにしていますね。ひろのぶさんはいかがですか?
田中 指揮者の齊藤一郎さんという方がいらして、僕は同い年なんだけど、師匠と思っていろいろ話を聞いているんです。その人に僕、言ったんです。「何かを選ぶ時って、正しいか・間違っているかで『正しい』と思うほうを選ばなくちゃダメだと思ってたんですけど、最近は『楽しい』と思えるほうを選ぶようになりました」って、俺はいいこと言ったと思ったんですけど、めっちゃ叱られまして。
『アホか。「ただしい」というのは論外や。自分の正しさに酔って独善的になってるだけや。「たのしい」も易きに流れているだけや。「たましい」のあることをやれ』って言われたの。なんか、かっこええな思って、言葉遊びにしては(笑)。
24年間電通でコピーライター・CMプランナーとして活動。2016年に退職、「青年失業家」と自称しフリーランスとしてインターネット上で執筆活動を開始。映画・文学・音楽・美術・写真・就職など硬軟幅広いテーマの文章で読者の熱狂的な支持を得る。2020年、出版社「ひろのぶと株式会社」を設立。著書に『読みたいことを、書けばいい。』『会って、話すこと。』(共にダイヤモンド社)がある。
阿部 うまい! と思いました。
田中 でも、真剣にそう言われたね。だから、気合の入った選択の方を選んだ方がいいかなと思いますね。
阿部 確かにそうですね、Aにするか、Bにするか、Cにするかより、より気合が入る方はどれか? という角度で見ると、反応するものがありそうですもんね。
田中 たぶん、ちょっとしんどそうで、イージーじゃないほうに道がある。とは言いつつ、会社を始めてみたら大変やなって、今は思ってるんですが(笑)。あと、「選ぶ」ということで言うと、採用のことを「選ぶ」と言ったら偉そうなんだけど、正社員になっていただくとか、人様に仕事を手伝ってもらうわけですから、頭を下げて「あなたにお願いする」って言うわけですよ。
選んだ以上は、私はあなたに任せる。任せた結果は、俺の責任になる。任命責任というやつですよ。これはすごく大事にしていますね。うまくいってもいかなくても、選んだことの責任を取る。うまくいったらその人を褒めればいいし、うまくいかなかったら、きっと頼んだ俺の責任。そういうふうには思っています。
質問者4 小学生の子どもがいます。彼がスポーツなどで選ばれなかったことに直面した時、後から選ばれなかったことが今に繋がっているなと感じてもらえるような声かけをしたいなと常々思っています。お2人ならなんと声をかけますか?
田中 うわ~きつい質問や。俺、小学校の時に少年野球のチームに入っていたの。ぜんぜん試合に出られなかったんだけど、ある時に監督が「行け!」と言って、代打で出してもらったんですよ。サインが出て、追い込まれてスリーバント、それも失敗したんです。
「バットをボールに当てて転がすだけやろ。バントもできないのか」と、次の試合から出してもらえなかったのね。選ばれなかったのよ。どんな声をかけてもらったら、その時の俺は救われただろうねって、いまだに思うもん。
阿部 きっとこの小学生の彼も、もしそういうことに直面したら落ち込むでしょうし、ヘコむし、「ああしておけばよかったな」って、きっと夜寝る前とかに考えたりとかすると思うんですよ。そういう時になんて声をかけられるのか。何でしょうね?
この前、「落ち込んだ時だからこそ味わえる感情や見える景色があると思うんだ」という話をさせてもらった機会があったんですが、小学生の彼にそんなこと言ってもちょっとなぁ……っていうのがあるので(笑)。なんか……アイスクリームとか……。
1986年3月7日生まれ。埼玉県出身。中学3年生からアメリカンフットボールをはじめ、高校・大学と計8年間続ける。2008年、慶應義塾大学経済学部を卒業し、電通入社。人事局に配属されるもクリエイティブ試験を突破し、入社2年目からコピーライターとして活動を開始。「今でしょ!」が話題になった東進ハイスクールのCM「生徒への檄文」篇の制作に携わる。作詞家として「向井太一」「円神-エンジン-」「さくらしめじ」に詞を提供。Superflyデビュー15周年記念ライブ“Get Back!!”の構成作家を務める。2015年から、連続講座「企画でメシを食っていく」を主宰。オンライン生放送学習コミュニティ「Schoo」では、2020年の「ベスト先生TOP5」にランクイン。「宣伝会議賞」中高生部門 審査員長。ベネッセコーポレーション「未来の学びデザイン 300人委員会」メンバー。「企画する人を世の中に増やしたい」という思いのもと、学びの場づくりに情熱を注ぐ。著書に『待っていても、はじまらない。ー潔く前に進め』(弘文堂)、『コピーライターじゃなくても知っておきたい 心をつかむ超言葉術』『あの日、選ばれなかった君へ 新しい自分に生まれ変わるための7枚のメモ』(ダイヤモンド社)、『それ、勝手な決めつけかもよ? だれかの正解にしばられない「解釈」の練習』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。
田中 甘いものかよ(笑)。いやぁ、難しい。今、阿部さんが言ったようにさ、写真家の荒木経惟さん、アラーキーが昔奥様を亡くしてね。妻の陽子さんの写真を、亡くなる過程も全部写真集にしてすごく悲しんでいた。周りの友だちが「元気出せよ」みたいなことを言うたびに、「ほっといてくれ。俺は今、いい感じに悲しんでいるんだから」って言ったんだって。それはさぁ、大人じゃないと無理だよね。小学生に「いい感じに悲しめよ」って言っても、わけわかんないよね(笑)。だからこれは難しい。
あとやりがちなのは、「あっちのブドウは酸っぱいぞ論法」もダメじゃない? 例えば、野球でレギュラーに選ばれなかったからって、「野球なんてつまらないスポーツだよ~」って言うわけにもいかないじゃない。
阿部 なんか美味しいもの食べに行くとか。言葉を伝えるよりも、うまくいかない時も、また元気出していこうというのを、美味しいもの食べて感じてもらいたいなって。
田中 それはそう! 俺、恋愛の相談受けたらいつも言うんだよ。『会って、話すこと。』の中にも書いたんじゃないかな? 永六輔さんの「『あなたが好きです』というのは最悪な言葉です」。つまり……異性に限らないですけど、好きな人を前に「あなたが好きです!」と言っても、「知らんがな」の可能性もあるじゃない。
そうじゃなくて、その人が楽しいと思えることを提案したり、おいしいものを食べたり、いい景色を見たり、映画を見たり、趣味の話をしたり、ピクニックに行ったりしたら、「あぁ、この人といると心地いい。楽しいな」という感情が生まれた結果、好きになるので。そういう企画をぜんぜんせずに、「あなたが好きです!」って……相手はなんでそんな請求書みたいなものを受け取らなくちゃいけないんだ?っていう。それもあるね。
だからこの本は、選ばれなかった自分や、誰かへの言葉の見つけ方の本でもあるんだけど、言葉だけじゃないよっていうことでもありますよね。
阿部 一緒に行動やアクションを起こしたり、どこかに出掛けたり、実はそういう振る舞いにもたくさんの言葉を含んでいるので。『会って、話すこと。』というひろのぶさんの本も合わせて読んでいただけると、もしかしたらよりいいかなと思います。
田中 お金を出せば買えます! 金で解決!
阿部 最後、僕やひろのぶさんからのお知らせタイムです。ひろのぶさんもたくさんの活動をされてますし、もしよかったら、お知らせをいただいてもいいですか。
田中 えーっと、炭火居酒屋…あ、ごめん。これ、このあとの打ち上げの案内の紙やった。ひろのぶと株式会社は出版社で、実は今日も著者の田所敦嗣さんがお越しになっているんですが、田所敦嗣さんの『スローシャッター』という本と、稲田万里さんの『全部を賭けない恋がはじまれば』という2冊の本を刊行しております。どちらも僕が本当に大好きで、出したいなぁと思って世の中へ送り出した本なので、もしよかったら手に取ってもらえたらいいなと思います。僕は今、本当にそれしかお伝えすることはないですね。
阿部 私の方からも、今日、本編で話しそびれてしまったんですけど、10年くらい前にいろんなコンペにエントリーしていました。この本も、もともとは作家の賞に短編集を書いて出して、箸にも棒にもかからなかった中からずっと温め続けて、なんとか今回かたちになったんです。
10年前の自分が、「広告の世界を超えて、紙もデジタルも超えて、読んだ人がワクワクする、ドキッとする、ゾクゾクする、ほんのり泣きたくなる、なんだか笑いたくなる、そんなものを手作りできる作家になりたい」と、書いていて。10年前だったんですが、過去の一生懸命がんばっている自分に、今回の本で少し応えられたかもしれないな、なんていうふうにも思っています。
もしよかったら、この『あの日、選ばれなかった君へ 新しい自分に生まれ変わるための7枚のメモ』という本を手に取っていただいて、感想をいただけたらうれしいなと思っています。
田中 僕にとっても、すごく大事な本になったと思います。まだの方、これから読めるっていうのは羨ましいぐらいです。