徹底的にうみを出して
政府の組織文化を立て直す

小泉氏

小泉 今、日本の国の機関としては、防衛省、経産省、総務省、そして警察庁もそうですが、いろいろな役所がサイバーセキュリティの能力を底上げしようとしています。その中で私の立場で特に注目してるところは、やはり防衛省なんです。

 私の地元の横須賀には、陸上自衛隊「通信学校」があります。この通信学校がある久里浜駐屯地は、実は日本最古の自衛隊の駐屯地なんです。そのような歴史ある地に位置する学校が、来年、サイバー人材育成の強化を加速化させるべく、「陸自システム通信・サイバー学校」へと生まれ変わることになったんです。

田原 そうなんですか。

小泉 さらに横須賀には、日本の中で唯一の「自衛隊の高校」もあるんです。これまでは海上自衛隊にもあったのですが、それがなくなって、今は陸上自衛隊のみの学校になりました。その陸上自衛隊の学校を「高等工科学校」()というのですが、この学校にサイバーセキュリティの人材育成のコースが新設され、現在、30人ぐらいが学んでいます。
※防衛大臣直轄の3年制の教育機関。高等学校卒業資格の取得を得ることができる

 横須賀には、在日米海軍の基地もあり、その隣には海上自衛隊の地方総監部()もあります。私の生まれた横須賀という町は、防衛の町なんです。先日、G7(先進国首脳会議)がありましたが、その時に来日したイギリスのスナク首相が、横須賀の海上自衛隊を訪れたんですよ。
※地方隊の隊務を統括する組織

田原氏

田原 イギリスの首相がわざわざ何のために?

小泉 日本の護衛艦を視察するためです。最近、イギリスとの防衛協力がかなり深まっているんです。スナク首相以前では、メイ首相(当時)も来日したときに、横須賀の海上自衛隊を視察しています。

田原 そんなに日本の護衛艦というのは優秀なんですか?

小泉 相当レベルが高いですよ。ソマリアなどで海賊行為への対処も行っていますし、日本の海上自衛隊の活躍や防衛力というのは、世界的にも評価されてます。

田原 でもなぜイギリスと日本なんですか?

小泉 安倍元首相がインド太平洋戦略を提唱し、このインド太平洋地域というのがこれからの世界の平和と安定を担っていく重要な地域だという認識を、世界中に共有されましたよね。このインド太平洋地域を守るために、海上輸送などを含めて重要な場所に位置するのはどこかとなると、おのずと日本になるわけです。

 中国リスクが世界中に広がっている中で、イギリスもオーストラリアも、そしてほかにもさまざまな国が、連携先として日本に目を向けているんです。ですので、これまで横須賀に入港しなかった国の船が来たり、さまざまな国の軍の関係者が来たりしています。

 自衛隊は今、大きく変わろうとしています。先ほどお話しした、横須賀にある日本で唯一の自衛隊の高校というのは、男子校なんですね。それが今回、安全保障関連3文書()の中で、男女共学になることが明記されたんです。実はこれは自衛隊にとって、ものすごく大きな決断なんです。
※「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の3点

田原 なぜこれまで男女共学ではなかったのですか? 自衛隊には女性もたくさんいますよね。

小泉 男性が中心だった軍の文化が脈々と残っているため、そうした発想がだいぶ遅れていたんでしょうね。でもやはり、そうした文化を超えて優秀でモチベーションの高い人材を集めなければいけない時期に来たんだと思うんです。

 特にサイバーの分野って、どれだけ多くの人材が来ても常に足りないわけですよ。いくらでも人材が欲しい。そうなると、男性だけにこだわっているような、もうそのような場合ではないですよね。性別関係なしにやりたいと思ってくれる優秀な人に来てもらわなければなりません。男女共学は、そうした覚悟の表れともいえます。

 ただ最近、残念ながら、自衛隊の中でハラスメントの問題がありました。防衛省として謝罪や処分を行いましたが、こういったものは徹底的にうみを出し、しっかりと立て直さなければなりません。

 やはり組織の文化が変わらないといけませんし、変わる姿を示さなければ、いくら共学にしたところで、そもそも入りたいと思ってもらえません。日本には徴兵制度はないので、関心を持ってもらえなければ人は集まらないんです。

おふたり

 先ほどの田原さんの「日本のサイバーセキュリティを強化するにはどうすればいいか」というご質問はまさにこの部分で、(積極的なサイバーディフェンスを実現化するための)来年の法改正には大きな課題がたくさんあります。

 それを乗り越えるためには、政府の中の組織のあり方を大きく変える必要があるんです。

 今はまだ、組織のあり方をどのようにすべきか、その形が明確に出てきていません。例えば、「国のためにサイバーセキュリティの分野で役に立ちたい、スキルを活かしたい」という人がいれば、体力を不問にして、スキルや成長性を重視し、自衛官として認めるようにする。そのような新たな自衛隊の姿をつくっていくこともスタートのひとつです。実際、防衛省はこうした動きに今、非常に前向きです。

 ですので、今年中に新しい組織のあり方を明確化し、根拠も固めて、同時に人材育成も進めなければなりません。優秀でモチベーションの高い人材がきちんと能力をつけて活躍できるということがわかれば、より多くの人に「ここで働きたい」と思ってもらえるはずです。そのための文化を醸成していく必要があります。

――今回のロシアとウクライナの戦争で、サイバーセキュリティの重要性を感じている国民は多いと思います。私たち国民ひとりひとりでできることは何でしょうか?