米株式相場は6月前半に上昇を加速させた。筆者は当欄で4月、5月と、株式のアク抜け相場が慢心を生むリスクを論じた。しかし相場は今や慢心どころか、華やかな値動きを追認的に正当化し、買い気を最大限に発現させるゾーンに入った感さえある。心理相場の暴走は速く大きく、投資家としてその妙味は取り込みたい。しかし、そこには典型的なワナもある。(楽天証券グローバルマクロ・アドバイザー TTR代表 田中泰輔)
現在の米株相場の変動は市場参加者と
相場の相乗作用がもたらしている
株式相場は、日本に続いて、米国も5月終わりに上昇に弾みをつけた。好条件と強烈な新テーマが重なり、「弾みをつけた」という以上に、フィーバーに至っている。
相場には、経済や金融のファンダメンタルズ諸条件が市場の外から規定する他律変動と、市場内部で投資家など参加者の行動と相場の相乗作用で動く自律変動がある。
足元の動きは、このうち後者の自律変動がゾーンに入った(潜在的な買い意欲が、自動操縦されるかのようなフル発現状態になった)かの様相に見える。その背景をアップデートし、勝算とリスクを考える。
筆者は、4月の当欄で、5月FOMC(米連邦公開市場委員会)開け後にアク抜け感から、米株高になる可能性を論じた。いったん株高になると、相場上昇を追認して好都合な材料ばかりを強調する「慢心」論調に傾きがちだ。
一方、マクロ環境は、高金利、逆イールド(短期金利が長期金利より高い状態)という信用引き締まりが進むステージである。したがって、2022年のサマーラリーのように、ファンダメンタルズの逆風を無視する「慢心相場」が突っ走り、崖から転がり落ちる轍を踏まないよう、老婆心のような注意喚起をしたわけだ。
もっとも、5月の米株相場は長くもたつき、筆者の注意喚起は勇み足で終わりかけた。
まずFOMC後、地銀株売り投機が続き、アク抜け相場の気勢をそいだ。さらに、米政府債務上限問題のXデー(支払不能日)が、想定の8月でなく、6月1日に前倒しされると、財務長官が明らかにした。債務上限問題の政府・議会交渉は、歴史的にほぼ茶番劇で、比較的短期で解決してきた。しかしXデーが目前に迫る警戒は、株式相場の重しになった。
ところが、相場はにわかに明転した。次ページ以降、その要因と今後、相場に臨むに当たり頭に入れておくべきポイントを整理する。