就職できない人が多すぎて労働力が余っている状況は
「人口ボーナス」といえるのか

 いったい、中国が目指す「人口ボーナス」とは何なのか。

「人口ボーナス」という言葉は単純に、総人口に占める労働人口(生産年齢人口)の割合が高い状況、つまり多くの労働人口が非労働人口(従属人口。子供や老人など)を支えている状況を指す。だが、労働人口がふさわしい職に就けずに「余っている」という現状は、「ボーナス」以前の話だろう。

 政府は闇雲に頭数だけ労働者を増やすことを念頭に出産を奨励しているが、現実にはその親に当たる若い世代が仕事を失ったり、未来の親世代が満足に仕事に就けなかったりという状況にある。国はその危険性にも気付いており、公務員の募集枠を多少拡大したり、国有企業に積極的な雇用を奨励したりはしているものの、求職「飢餓」状態はまったく緩和されていない。昨年末に行われた公務員試験では、その競争率の高さはもとより、辺境地区の貧困農村部における税務職員1人の募集に6000人余りが殺到する始末となった。

 その一方で、政府は「若年高齢者」たちの再就職を奨励している。若年高齢者とは60歳から69歳までの高齢者を指す。2020年に行われた国勢調査によると、60歳以上の高齢者のうちこの若年高齢者が占める割合は55.83%、その数1億4700万人とされており、彼らの知識・経験・技能に目を付けて労働市場に送り込もうというのである。また昨年行われた調査によると、定年退職者のうち68%が強い労働意欲を見せており、社会に貢献し、また収入の増収を図りたいと考えているという。

 だが、こうした若年高齢者を待ち受けているのは労働集約型産業がほとんどで、実際に働いている人のうち6割以上が体力労働に従事しているという結果が出ている。その要因に挙げられているのが、こうした老人が居住しているのが地方都市部や農村地区に集中していること、また彼らが若いときに受けた教育レベルが低いためだという。また、中国の老人たちは若い頃の医療事情や栄養事情がたたり、現時点で健康状態が良好といえる人はわずか3割という報告もある。

 こうした「労働需給アンバランス」から、一部で「政府は大卒者たちを強制的に農村に送り込むスキームを考慮しているのでは」などという噂も流れ始めている。1960年代から70年代にかけて毛沢東が「若者は農村に学べ」と呼びかけて行われた、「下放」運動が、毛沢東時代の再来を目指す習近平政権のもとで再燃するのではないかというのである。

 ただ、さすがに「下放」の再演はないだろうと見る人たちの間でも、大量の高学歴者たちの就職難が社会不安を引き起こす要素になると見られている。中国政府は今後いかなる対策を取るのか、注目が集まっている。