さらに耐震性を向上させて基準を震度5強、あるいは震度6弱まで上げようという考え方もあるかもしれないが、この規模の地震となると揺れの大きさより特性に左右される上、地震対策の思想を根本的に変えて全ての設備を改修するのは費用、時間の面から現実的ではない。

 そうした中、最大限可能な対応策は、震度5弱と震度5強をより綿密に切り分けることだ。例えば「大阪府 震度6弱」といっても全ての地域が同じ揺れなのではなく、震源との距離や地盤によって震度は異なる。それを市町村単位、町名・地名単位、あるいはそれよりも細かい単位で震度を観測または推定することで救済できる列車は増える。

 そこで大阪北部地震を受けてJR西は、鉄道総合技術研究所が開発した「鉄道地震被害推定情報配信システム」を活用し、従来の震度計が約40キロ間隔だったのに対して500メートル間隔で揺れの強さを推計する仕組みを導入し、2021年6月から運用を開始した。これにより従来は40キロ単位で観測した揺れの大きさから列車の移動不可を判断していたのが、より細かい範囲で移動可能な列車を特定できるようになった。

 また阪急は「震度5以上の強い揺れが確認された場合、点検係員により施設の安全が確認されるまで列車を動かさない」としていたが、揺れの基準を震度5弱と震度5強に分け、震度5弱の場合は乗務員が安全確認を行った上で次駅まで列車を移動させる規定に改めた。

 同様の取り組みは、例えば2005年の千葉県北西部地震で複数路線の長時間の運転見合わせを招いた東京メトロは、沿線6カ所の地震計に加え36カ所のエリア地震計で区間ごとの揺れの強さを把握し、歩行点検が必要な区間を絞り込むという運用を行っている。

 危険性が否定できない場合は万全を期すべきだが、可能な範囲で乗客を救済する取り組みは今後も進めてほしい。

緊急車両が迂回を強いられた
「踏切の遮断」問題

 駅間停車列車のもう一つの問題は、踏切の遮断だ。踏切は列車の接近を感知して遮断機を閉め、通過後に開く。つまり踏切付近で列車が停止すると、踏切は閉まったままとなってしまう(停電時は列車の有無にかかわらず遮断機を下ろすことで安全を確保する)。

 大阪北部地震では、阪急京都線の東村踏切(吹田市)が約9時間遮断され、緊急車両が迂回(うかい)を強いられた結果、通常10分の区間に23分を要した。また坪井踏切(摂津市)も約9時間遮断され、通常7分の区間に42分を要した。