一つは駅間に停車した列車の乗客救済である。鉄道事業者はおおむね震度4以上を観測(あるいは早期地震警戒システムでそれ以上の揺れを予測)した場合、列車は安全確保のため緊急停止する(用いる基準は震度の他に揺れの加速度gal、揺れの速度kineなどがある)。
停止後、実際の揺れの強さに基づき、震度4であれば次の駅まで減速運転で安全確認を行い運転再開。震度5弱以上の区間で駅間に停車した場合は安全確認後、徐行で次駅まで進行し避難。震度6弱以上では列車は動かさず、乗客を降車して徒歩で避難させる、などのルールに基づき避難誘導を行う。
大阪北部地震では、朝7時58分という通勤ラッシュの真っただ中に発生したため、東海道・山陽新幹線が11本、JR西日本在来線が東海道線・山陽線88本を含む計153本、阪急が35本、京阪が24本、近鉄が18本、南海が2本の合計243本が一時、駅間に停車した。
特に駅間停車列車が多かったJR西日本では、列車の脱線、負傷者がないことを確認した後、地震から約30分後の8時27分に降車を開始した。だが、運転士と車掌だけでの避難誘導は困難であり、乗客の補助、誘導や障害者の介助要員として周辺駅の係員などを手配する必要がある。結局、約14万人もの乗客の避難が完了したのは地震発生から5時間以上後のことで、空調の切れた車内で体調を崩す乗客の発生や、トイレ問題などが生じた。
駅間停車による車内閉じ込めは鉄道事業者にとって最も避けなければならない事態の一つである。台風や大雪においては、基準値を超える前に運行を取りやめる「計画運休」の実施が広がっているが、予知・予測ができない地震で駅間停車を防ぐことは不可能だ。
問題はそのリカバリだ。列車を動かせるのであれば次駅まで乗客を運んで避難できるが、動かせないのであれば乗客が次駅まで(場合によっては1キロ以上!)歩いて避難するしかない。つまり最悪は駅間停車からの降車徒歩誘導だ。この基準をどこに引くかで運命は大きく変わってくるのである。
震度5弱と5強の地点を
より綿密に観測
大前提として、安全性が確認できない場合は列車を動かすことはできない。各社は構造物の耐震化を進めているが、それでも震度5強クラスの揺れがあった場合は、設備に損傷が生じている可能性がある(同じ「震度」であっても構造物の被害に直結する「揺れの特性」は地震ごとに異なる)。そうなってしまえば、降車徒歩誘導以外に選択肢はない。
だが致命的な損傷は発生しないという蓋然性のある程度の揺れだったならば、安全に注意を払いつつ、次駅まで動かすことは可能だ。最終的な安全確認は係員の巡回が必要だとしても、まず乗客を避難させることができる。この境目がおおむね、震度5弱と震度5強というわけだ。