これは災害対応の大きなリスクとなるが、踏切の開放は全列車の停止を確認した上で、専門の係員を現地に派遣して操作する必要がある。これまでも状況に応じて対応した例はあるが、運転再開を長引かせる要因となる踏切開放はできる限りやりたくないのが鉄道事業者の本音で、対応の目安は決められていなかった。

 そこで大阪北部地震を踏まえ、2018年12月に閣議決定された「防災・減災、国土強靱化のための3カ年緊急対策」の中に「全国の踏切道に関する緊急対策」が盛り込まれ、長時間遮断時に優先的に開放する踏切の指定が進められた。また国交省が2020年に取りまとめた「総力戦で挑む防災・減災プロジェクト」でも約1500カ所の緊急輸送道路が対象に追加された。

 これら取り組みの実効性を高めるため、2021年4月に施行された改正踏切道改良促進法に「災害時の管理の方法を定めるべき踏切道の指定に係る基準(第13条)」が新設され、同年6月30日に全国181カ所の踏切を「災害時の管理の方法を定めるべき踏切道」に指定。2022年7月29日に191カ所を追加した。

 指定された踏切の鉄道事業者、道路管理者は「警察・消防などの関係機関との災害時の連絡体制」「長時間の通行遮断の解消に向けた手順、情報提供の仕組みを定めた対処要領」「定期的な訓練の実施」などを定めることとされており、今年7月末までに指定済みの372カ所の管理方法の策定を完了する予定だ。

 これらの取り組みは万能ではなく、駅間停車列車の移動はマグニチュード7クラスの地震の震源近くでは不可能であり、踏切開放も人員の手配や移動などの制約から想定通りの対応ができない可能性もある。だが、教訓を取り入れて絶えず問題を改善していくことが防災、減災に向けた唯一の道である。

 今年は関東大震災から100年の節目である。関東大震災のようなマグニチュード8クラスのプレート型地震は約200年の周期で発生すると考えられており、当面は想定しづらい。だが200年の後半にはマグニチュード7クラスの直下型地震が定期的に発生するという説もあり、関東は今後、地震活動期に入る可能性がある。

 鉄道事業者は利用者、沿線住民の生命財産を守ると同時に滞留者(帰宅困難者)を保護する責務があり、できる限り早く運転を再開し、社会機能を維持する役割も担っている。

 一つの取り組みで全てを同時に解決することはできず、ステップごとの対策を地道に重ねていくしかない。利用者も節目ごとに取り組みの進捗を確認し、自らの備えとしてほしい。