先に挙げた、シスコがかつてスピンインするまで独立させていたスタートアップや、GMクルーズ、ソラコムなどの例も、別会社として独立していることでうまくいったケースです。
なぜ別会社の方がうまくいく例が多いのか。いくつかの理由が考えられますが、別会社になっている方がリスクを取るための人材採用や育成がしやすいという点が挙げられます。少なくとも日本の場合、別会社化した方が給与体系などを独立させやすく、新規事業をうまく作り出しやすいこともあるのではないかと思います。
とある例で、10年ほど前に同じような事業を開始した大企業の一部門とスタートアップがありました。10年後の今、大企業の一部門の方は大企業の事業の一部として継続はしていますが、事業収益はさほど大きくなっていません。一方、スタートアップはVCからの投資を受けた結果、いくつかの修羅場はあったものの、それらもくぐり抜けIPOも視野に入ってきています。その分野では名前を知らない人はいないでしょう。
スタートは同じだったのに
なぜ成否が分かれるのか
スタートはほぼ同じだったにも関わらず、この2社の成否を分けたのは何だったのでしょうか。
大企業の場合、既存の法人営業部隊から見れば、売り上げ規模が十分大きい既存事業と比べて、新規事業は市場としてまだ立ち上がっていないため、苦労のわりにはちりのような小さな契約しか取れません。営業担当者が売りたがらないので事業が伸び悩みます。事業の立ち上げメンバーもスピンアウトする意欲がない、あるいは意欲があっても会社から承認されないので、そのまま企業内に残っていますが、ある種“飼い殺し”のような状態になることも多いのでしょう。
一方、スタートアップの方はVCからの投資も順調で、IPOも視野に入り、いわばスタートアップのサクセスストーリーを実現できている。スタート時点ではほぼ同じような条件にあり、こうしてスタート時点ではむしろ、大企業の方が既存のアセットやリソースを使える有利な立場にあったにもかかわらず、10年たつと逆転して、業績で100倍以上の差がついたのです。
こうした例はあちこちで起きています。“飼い殺し”状態にさせないために、別会社化する戦略もぜひ一考してください。
(クライス&カンパニー顧問/Tably代表 及川卓也、構成/ムコハタワカコ)