加熱式たばこを吸う女性写真はイメージです Photo:PIXTA

防衛費増額が決まるも、財源が1兆円程度不足している。不足分を所得税、法人税、たばこ税などの増税で充当することも議論されているが、国際政治アナリストの渡瀬裕哉氏は「所得税や法人税の増税は悪手」「たばこ増税は無意味。特に加熱式たばこ増税は最悪の選択肢」と言う。その理由とは。(国際政治アナリスト 渡瀬裕哉)

防衛財源確保法は
成立したが…

 2023年6月16日、防衛費増額の財源の根拠となる防衛財源確保法が可決・成立した。この法律は新たに「防衛力強化資金」を設立し、その資金源として政府資産売却益や特別会計繰入金などを充てることを目的としたものだ。

 その上で、自民党税制調査会は防衛費増額不足分1兆円を所得税、法人税、たばこ税などの増税分を充当することも議論している。ただし、防衛増税の是非に関しては与党内でも割れており、いまだ明確な増税案が出来上がっていない。

 ただし、そもそも防衛費を増税によって賄うという考えは非現実である。なぜなら、仮想敵国である中国の軍事的脅威が増した理由は、同国の経済成長に伴う軍事費増加が原因だからだ。日本が失われた30年の間に経済的に低迷する中、中国はグローバル経済に適合し飛躍的な経済成長を遂げた。

 その結果として、彼らは東アジア地域においては米国を脅かす軍事力を手に入れることになった。今後、日本がさらに増税を繰り返すことで経済成長を鈍化させることは、安全保障政策上の自殺行為に他ならないといえるだろう。

所得税や法人税の増税が
悪手である理由

 日本は長らくデフレに苦しんできたが、黒田日銀前総裁の異次元緩和、その路線を維持する植田新総裁の下で、ようやくデフレ脱却の見通しがつきつつある。

 ただし、異次元緩和政策を台無しにする度重なる消費税増税が行われたことで、本格的な景気回復は幾度も挫折しかけてきた。今、所得増税や復興特別所得税延長によって、個人消費を鈍化させて景気回復を腰折れさせる事態は回避しなくてはならない。

 また、法人税を引き上げることも愚策である。

 中国の法人税率は25%であるが、企業規模や特区内立地などによっては、法定税率よりもはるかに安い法人税しか課されない企業も多い。安価な法人税は企業競争環境にとって重要であり、米国でも対中政策上の重要な要素として法人税率の引き下げは意識されている。

 それにもかかわらず、法人実効税率が30%程度の日本が法人税をさらに増税し、自国経済を痛めつけて中国に勝てるはずがない。中国よりも高い法人税率によって、経済成長のための金の卵を生み出す企業を痛めつけて、軍事費の原資となる税収を減らすなど愚の骨頂である。

 では、たばこ税増税はどうだろうか。