ディズニーは「こぼれた顧客」も
逃さない

 さて、ここで三番目の説明を試みたいと思います。

 いくらアメリカの本社から見て妥当な金額だからといって、日本のいわゆる普通の若い消費者層を置いていくような価格設定をすることが、長い目で見てディズニーの世界戦略として正しいのでしょうか。

 実は、ディズニーという企業は世界中の大企業がベンチマークしている優良企業です。そのため、私のような戦略コンサルタントはこれまで何度もディズニー本社の幹部とコンタクトをとってその戦略を理解しようと試みています。

 私が理解しているディズニーの戦略とは、このようなものです。ひとことで言えば、ディズニーは顧客を見捨てない。これがディズニーの根幹を貫く企業哲学です。

 その一方で、資本主義の世界で貧富の格差が拡大していることは、あらがうことのできない社会の前提だと考えます。

 結果として何が起きるかというと、どのような消費セグメントにいる顧客にとっても、その家庭の子どもが笑顔になれる商品やサービスを提供できるように、ディズニーはすべての所得層にわたるさまざまな商品群を用意するのです。

 ものすごくわかりやすく意訳すれば、ディズニーリゾートの来園客は富裕層がターゲットでも構わないと割り切る一方で、だったら来園できない所得層の家庭で育つ子どもたちが笑顔で楽しめる別のものを用意しようと考えます。

 アメリカの場合は(日本でもおそらくそうですが)ディズニーストアが、その役割を果たそうとしています。

 アメリカ全土の主だった都市にあるディズニーストアでは、子どもたちが夢の世界を味わえるようにお金をかけて造り上げた素晴らしい内装でゲストを出迎えます。それほど所得が豊かではない家庭の子どもでも、満足して購入できる価格帯の商品が大量に用意されています。

 さらに、途上国の子供たちが先進国のそのような商品を買えないとなると、途上国ではさらに安い価格でライセンスを契約してディズニーのキャラクターのTシャツやバッグ、ぬいぐるみを子どもたちが所有できるようにします。

「ディズニー商品を買うことができない子どもたちがいない世界をつくること」が、ディズニーの戦略といっていいかもしれません。

 そして海外でいえば、ケーブルテレビのアニメ専用チャンネルやディズニーチャンネルを見ればいつでもディズニーの世界に子どもたちがひたることができる。これが、ディズニーの世界戦略です。