黒田東彦・日本銀行前総裁が退任し、植田和男新総裁が就任して約3カ月が経過した。異次元緩和の評価、現下の物価情勢の分析、新体制に望む金融政策のあり方などについて、日銀元副総裁である山口廣秀・日興リサーチセンター理事長へのインタビューを2回にわたり掲載する。前編では異次元緩和の功罪、物価情勢について語ってもらった。(構成/ダイヤモンド編集部編集委員 竹田孝洋)
2%の物価上昇を実現
できなかった異次元緩和
――2013年から10年間続いた異次元緩和をどう評価しますか。
FRB(米連邦準備制度理事会)やECB(欧州中央銀行)のインフレ目標政策より、はるかに大胆でかつ厳格なインフレ目標政策だったと考えています。
どこが大胆かつ厳格であったのか。一つは2年という短期間で2%の物価上昇を達成するという非常に挑戦的な政策目標を設定したということです。もう一つは、それを実現するために大量の国債買入を行うといった大胆な手法を打ち出したことです。異次元緩和策が発表された時、私は非常に驚きました。
異次元緩和の狙いは、それまで人々や経営者が持っていたデフレ心理を大胆な目標と政策を打ち出すことで一気にインフレ心理に変えていこうというものでした。実際に、マインドは短期的には明るくなりましたが、長続きはしませんでした。
その後、目標実現を目指して14年の10月に国債やETF(上場投資信託)の買い入れ額増加という形で異次元緩和が拡大され、16年1月にはマイナス金利、16年9月にはYCC(イールドカーブコントロール)が導入されました。
こうした政策を打ち出したにもかかわらず、安定的な2%の物価上昇を実現できませんでした。22年4月以降、消費者物価上昇率は2%を超えていますが、これは輸入物価上昇によるもので異次元緩和の成果とは言えません。結局、政策効果を十分に発揮できませんでした。
なぜ、異次元緩和は2%の物価目標を達成できなかったのか、足元の物価上昇を一時的ではないとみるのはなぜなのか、について次ページで山口氏が分析する。