親子関係の不良が高めるHIPリスク

 解析対象は、2019年4月~2020年3月に、4府県(大阪、宮城、香川、大分)の産科施設58件を受診した全妊婦から、データ欠落者などを除外した6,264人。初診時に行った「両親との関係について満足しているか?」との質問に対して、93.3%が「満足している」、5.5%が「あまり満足していない」、1.2%が「全く満足していない」と回答。この3群間に、年齢、未婚者の割合には有意差がなかった。親子関係の満足度が高い群ほど教育歴(高卒以上の割合)は有意に高く、自己申告による精神疾患既往者の割合(全体で5.6%)は低かった(いずれもP<0.01)。

 HIPは4.4%に認められた。「親子関係に満足している」群を基準とするロジスティック回帰分析の結果、交絡因子未調整の粗モデルでは、「あまり満足していない」群のHIPのオッズ比(OR)が1.77(95%信頼区間1.11~2.63)であり有意に高かった。ただし、年齢、教育歴、精神疾患の既往を調整すると、OR1.53(同0.98~2.39)でありわずかに非有意となった(P=0.06)。「全く満足していない」群は、粗モデルでも有意な関係が認められなかった。

 次に、HIPの既知のリスク因子である精神疾患の既往の有無で層別化して検討。すると、精神疾患の既往がなく親子関係に「あまり満足していない」群のHIPリスクは、粗モデルでOR1.85(1.17~2.95)、年齢と教育歴を調整後にもOR1.77(1.11~2.84)であり、独立した有意な関連が認められた。一方、精神疾患の既往があり親子関係に「あまり満足していない」群では、有意なオッズ比上昇は認められなかった。なお、親子関係に「全く満足していない」群は、精神疾患の既往の有無にかかわらず非有意だった。

 著者らは既報研究に基づく考察から、親子関係の不良がHIPリスクを高めるメカニズムとして、喫煙や体重管理の悪化などの不健康な行動が関与している可能性があると述べている。また、親子関係に「あまり満足していない」群でHIPリスクが高いのに対して「全く満足していない」群はそうでなかった理由については、後者の群にはACEリスクがより高いために児童福祉支援を受けて育った女性が多く含まれており、逆説的にACEによるHIPリスクを高めるような行動増加などの影響が小さくなった可能性が考えられるとしている。

 以上より論文の結論は、「精神疾患の既往のない妊婦では親子関係の良くないことがHIPリスクと有意に関連していた。妊婦の診察においてACEの有無を直接評価することは困難だが、親子関係を問うだけでACEの影響により生じるHIPリスクを推測できるのではないか」とまとめられている。なお、研究の限界点として、BMIや喫煙習慣、妊娠中の体重増加、血圧など、HIPの既知のリスク因子を考慮していないことなどを挙げ、さらなる研究が必要としている。(HealthDay News 2023年7月3日)

Abstract/Full Text
https://bmcpregnancychildbirth.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12884-023-05535-3

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