日本銀行は1990年代後半以降の日本経済を題材に、1年から1年半にわたって多角的レビュー(検証)を実施する。これにより、新体制の下で金融政策を運営するに当たって、長期的な視点で金融政策を評価・決定する手がかりとなるはずだ。一方、経済政策の両輪を成す財政政策については、依然として効果検証がなされないまま、政府が支出拡大の方向にかじを取っている。東京大学大学院経済研究科・経済学部の仲田泰祐准教は、財政政策でも検証の必要性を説く。(編集部)
レビューによりマクロ環境の変化を整理
──日本銀行が1年半程度かけて、日本の1990年代後半以降の日本経済について多角的レビューを実施します。このレビュー実施をどう評価しますか
あらゆる政策に効果/副作用があると思っているが、これまでそこがきちんと整理できていない印象だった。今回の検証レビューで、そうした効果を適切に分析することになれば、個別の金融政策の評価もしやすくなる。金融政策がインフレや消費、GDPにどのような影響を与えたのかを明確に数値化するのは難しいが、多角的にレビューすることで見えてくることがあるはずだ。
──レビューの実施方法は具体的に明示されていませんが、どのような手順・手法で振り返ると考えられますか
米連邦制度準備理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)などのレビューを参考にするのではないか。例えば、FRBのレビューでは次の三つのステップを踏んでいる。いろいろな経済関連のトピックについて、(1)スタッフの分析メモに基づいて政策立案者がFOMCで議論、(2)学会を開いてアカデミアの有識者・海外中央銀行関係者などと討議、(3)Fed Listens(フェドリッスンズ)という一般の人々との対話を行う──。日銀のスタッフもこの手法を把握しているはずなので、これとまったく同じ進め方にするかどうかは分からないが、これを参考にして体系的なレビューを行う可能性はある。
──レビューは、どのような内容・方向性になりますか
何か新しい分析を試みるというよりも、既存の知見をまとめるかたちになるのではないか。具体的には、25年間に行われた日銀の金融政策の効果を細かく分析していくというよりも、金融政策によって、日本経済のファンダメンタルズの変化を探るイメージだ。
国債の会計処理やETF(上場投資信託)の購入など、政策ツールに対する分析・評価した過去の研究結果は示されるかもしれない。しかし、例えば「2000年のゼロ金利解除は早急だったのか」というような個別の分析・評価にまでは踏み込まないだろう。この25年で日本をはじめ、さまざまな国・地域で潜在成長率が下がっているが、そうしたマクロ環境の分析を整理する目的があるように思う。