いまビジネスの世界で話題をさらっている生成AIの登場で、これまで「知」とされてきたものの価値が揺らいでいます。そのため、これからの時代を生き抜いていくためには、単なる知識の暗記や積み上げではない、「AIにできない思考」を実践する必要があります。
そのとき大切なのが、物事について「なぜそうなのか?」を徹底的に考え抜いていく「クリティカル・シンキング」です。
そこで今回は、「マーケティングとはそもそも何か?」を分析することを通じて「クリティカルに考える」ことを実践してみせた新刊『新マーケティング原論』著者・津田久資氏にご登壇いただいた、本書刊行記念セミナー(ダイヤモンド社「The Salon」主催)の模様を、全2回のダイジェストでお届けします。(構成/根本隼)

【コンサルが教える】「AIに負ける人」に共通する“ざんねんな特徴”

理系の人ほど「論理的思考力」が弱い理由

津田久資氏 「理系の人=論理的思考力が高い」という印象をお持ちの方がいるかもしれませんが、本当にそうでしょうか。実は、理系の人ほど、意外にも論理的思考力が弱いというケースは少なくありません

 なぜなら、彼らは、既存の公式に当てはめて答えを導くことを、「考える」ことだと勘違いしていて、理系の人は、既存の公式をたくさん知っているからです。

 教えられる公式というのは、「他人がつくった論理」です。自分で編み出した論理ではありません。ですから、公式を操って何らかの答えを出しても、そこには「自分の頭で考える」というプロセスが欠落しているんです

 もちろん、既存のフレームワーク(いわゆるフレームワークも公式の一種です)や公式で処理できる問題や仕事もあると思います。でも、それだけでは解決できない場合、そのフレームワークや公式自体の妥当性を疑わなければいけません。

「AIに負ける人」のざんねんな共通点

 実は、AIにも「自分の論理」がつくれるようになってきています。いわゆる生成AIがいま話題になっていますよね。たとえば、ピカソの絵をデータとして大量に取り込ませたうえで、「リンゴをピカソのキュービズム風に描け」という指示を出せば、それらしいアウトプットができてしまいます。

 それは、画像データのインプットを通じて、ピカソの絵の「一般法則」をAI自身が導き出しているからです。

 つまり、他人の論理を機械的に当てはめるだけでなく、人間に固有な能力だと考えられてきた「自分の論理をつくって応用する」という行為の一部も、AIにとって遂行可能になってきているということです。

 なので、ビジネスの成功事例をAIにたくさんインプットさせれば、その成功法則がはじき出されるので、個別具体的なビジネスの状況に応じた施策案もAIが自力でつくれます。これは、考えることを怠ってきた人々にとってはかなりの脅威だといえるのではないでしょうか。

 つまり、「他人の論理」の当てはめばかりをやっている人は、もはやAI以下の思考しかできないということです。これからを生きる私たちは、このことにもっと自覚的にならなければいけません。