師匠に言われた言葉

 師匠は私の雰囲気から辛いことを読み取ったのでしょう。「どうしたん?」と声をかけてくださいました。

 私は仕事の量が増えたこと、そして仕事に対する取り組み方について話をしました。すると師匠は私にこう教えてくれました。

「頑張るのはいい。だけど、仕事の優先度を考えたり、効率的にこなしていく方法も考えなければ、それはプロの仕事とは言えないよ。ただ頑張っているだけ」

 私にとっては衝撃的な一言でした。

 たしかに、それまでの私の仕事の仕方はなんでもかんでも「頑張ることだけ」を考えていました。それは、言い換えれば、「どうしたらもっと効率的か」「なにから取り組めばいいのか」などを考えることなくがむしゃらに仕事をしていたのです。要するに頭を使っていなかったのです。

 対して師匠は、もらった仕事をしっかりと整理し、優先度を考え、効率化をはかり、すべての仕事を遅れることなく、高クオリティでこなしていたのです。

 私はそれ以降仕事の仕方を変えました。師匠と同じように考えながらこなすようになりました。成果が出るようになったのは言うまでもありません。

頑張る方向性を間違うとやる気は意味をなさない

 少し落ち着いた頃、また師匠と会うことがありました。前回指導していただいたことのお礼を伝えました。すると師匠からこう言われました。

「頑張るのは当たり前のことで、プロに求められるのは『どこでどう頑張るか』ってこと。ここぞと言うときに踏ん張れるように、他の仕事を効率化してみたりして工夫しなければいけない。しかも効率化しながら質を上げられないと二流だよ。だから仕事がきたときに、それがどんな仕事なのか嗅ぎ分けることからはじめなさい」

 再びの指導をしていただいて、今に至ります。師匠の言葉には働くことの本質が詰まっていたように思います。まだまだ修行中の身ではありますが、かつての自分と同じように「頑張る方向を間違えている」若手をみると同じように声をかけています。

 昔の自分の言い訳をするわけではありませんが、仕事に熱心な人ほど陥りがちですので、頭の片隅に入れておいていただけますと幸いです。