青学のキャンパス移転で学生アパート大ピンチ!?と思いきや「入居率99%」が続く理由入居率99%の秘密は... Photo by Kenta Hasegawa

郊外の大学の都心回帰、大学の倒産により、各地で新たな異変が起きている。キャンパスの閉鎖で何百、何千という学生が一挙に姿を消し、学生向けの賃貸アパート経営にも大きな影響を及ぼしているのだ。「大家さんにとっては試練の時。ただ、そうした中でも満室経営を続ける物件もたくさんあるんです」と、自身も学生アパートを経営する一芸物件専門家の井上敬仁氏は言う。「悲観するばかりでなく、知恵を絞って、選ばれる物件づくりに注力すべきだと思います」と井上氏。そのヒントとは? (一芸物件専門家/キャリアコンサルタント 井上敬仁)

※この記事は井上敬仁『高い家賃なのにいつも満室になる人気物件のつくり方 一芸物件』(アスコム)の一部を抜粋し、大幅に加筆・再編集したものです。

大学も倒産する時代
学生が消えた町の賃貸住宅はどうなる…?

 2000年代に入り、多くの大学で行われたのが郊外のキャンパスの“都心回帰”でした。東京の過密を防ぐことなどを目的とした工場等制限法が、02年に撤廃されたのが大きなきっかけです。

 郊外では広々としたキャンパスを確保できる一方、立地が不便になったことで、入学希望者が減ったり、偏差値が下がったりといった弊害が生じていたそうです。少子化が進行した昨今は定員割れも発生、各大学にとっては学生確保が急務となり、都心に戻ることを決断したわけです。

 この都心回帰は数年前をピークにだいぶ落ち着きましたが、それだけでは終わりませんでした。大学が倒産する時代がはじまったのです。2000年以降、廃止や民事再生法の申請に至った私立大学は14校。それに伴うキャンパス閉鎖があちこちで起こっているのです。

 22年度、日本全国では私立大学の47.5%が定員割れだったそうです。中でもシビアなのが女子短大で、直近でも東京都多摩市の恵泉女学園大学、神奈川県秦野市の上智大学短大部が学生募集の停止を発表しました。これに限らず、廃止予備軍の大学はまだまだあるといわれています。

 そんなご時世に、「学生に仲介したくても、空室がない」という、何ともうらやましい悩みをもつ不動産管理会社があります。

 東郊住宅社といい、拠点は神奈川県相模原市、JR横浜線の淵野辺駅周辺です。青山学院大学、桜美林大学、相模女子大学、麻布大学の通学圏内にある学生の町で、同社は現在、1800室の賃貸住宅の管理業務を行っています。

 この町に大きな変化が訪れたのは13年のことでした。青山学院大学の相模原キャンパスから、人文・社会科学系学部が東京都渋谷区の青山キャンパスに移転することとなったのです。

 キャンパス再編を経て、相模原キャンパスの学生数は1万人規模から約3500人へ。多数の学生アパートを扱う同社にとって、これは大きな打撃でした。しかし、結果から先にお話しすれば、東郊住宅社はここ何年にもわたり、管理物件の入居率99%、すなわち全物件がほぼ満室という実績を誇っています。

 同社の悩みは、部屋探しに訪れるお客様がいても、空室がなくて紹介できる物件がないことなのだとか。淵野辺は静かな住宅地で、これという商業施設やテーマパークはありません。そのような中で、全物件で満室が続いているのは、驚くべき事実です。

 では、同社が管理する物件は、なぜ、そんなに人気が高いのでしょう?