ローカル経済にこそ伸びしろがある
最先端ITはネットから調達すべし
目線を高めて、マクロな視点で、生産性向上を考えてみましょう。テクノロジーの劇的な進歩によって、ここ数年で、実にさまざまな事業や製品が萌芽しています。今日それらの一部は、社会に普及する段階に入っていて、実証段階とは違うケイパビリティーが求められています。
例えば、車の自動運転。自社の施設内で実験を行う段階では、誤操作などの失敗があっても問題にはなりませんでしたが、一般車道を走る段階に入ると、失敗は許されない。失敗したら、歩行者や運転手が死亡するという非常にシリアスな段階に入っているわけです。ここでは、絶対的な精度で機器が作動しなければいけない。同様に、エネルギーや通信回線など、特に社会インフラに関わる産業は、きちんとしたデリバリー、供給体制が求められます。
つまり、新しいテクノロジーを活用してイノベーションを実現することが求められる一方で、オペレーションの面では絶対的な正確性・安定性・継続性が不可欠となります。ここでは、少し別の意味での「両利きの経営」が必要になっているのです。
先ほど、野球型からサッカー型へのゲームチェンジと言いましたが、ここでの両利きの経営という観点からはラグビー型といえるかもしれません。つまり、オペレーション面では強固で堅実なスクラムを組むフォワードの役割が尊重され、ボールが展開されていく中では、創造性や敏捷性を発揮してトライを取りにいくバックスの役割が高まり、チーム全体では相互にリスペクトし協働していくラグビー型の戦いになっているといえます。
私が経営に携わっているバス会社でも、そういう面が強くなっています。全従業員数はおよそ7700人ですが、そのうち7000人は堅実なオペレーションで安定したバスの運行を担っていて、残り700人の部門では先端テクノロジーを活用したイノベーションを「探索」しています。そして、そこで使用するAIなどのテクノロジー製品は、世界のどこかのスタートアップが開発してネットで展開しているものを使っています。つまり、ローカル企業とグローバル企業が協働して、インフラ産業を担っているのです。
このように、ローカル企業は、自前でシステムを開発する必要はなく、ネットにある最先端のテクノロジー製品を活用すると、生産性は簡単に高められるのです。
日本社会全体でもこの方法で、生産性は大きく高められます。長年、私は言ってきたのですが、ローカルとグローバルの関係は、図表2のように、世の中のイメージと乖離して、現実には勤労者比率もGDP(付加価値総額)比率も、L型産業(ローカル、地域密着)が、G型産業(グローバル、東京都市圏・大企業)を圧倒しています。そして、当社のバス会社のように、グローバル企業が開発したITを活用することで、生産性はぐっと高まります。
ローカル産業や地方市場こそ伸びしろが大きいので、ここに注力すると日本全体の生産性は大きくアップするのです。今日、人手不足という状況に入って、生産性を上げる機運は高まり、冒頭に述べた通り、万人がそれを望んでいます。しかも、少子高齢化がますます進むので、生産性向上の必要性は趨勢的に続きます。(了)
冨山和彦(とやま・かずひこ)
経営共創基盤 IGPIグループ会長。日本共創プラットフォーム(JPiX)代表取締役社長。ボストン コンサルティング グループ、コーポレイトディレクション代表取締役を経て、2003年 産業再生機構設立時に参画しCOOに就任。解散後、2007年 経営共創基盤(IGPI)を設立し代表取締役CEO就任。2020年10月よりIGPIグループ会長。2020年 日本共創プラットフォーム(JPiX)を設立し代表取締役社長就任。パナソニック社外取締役。経済同友会政策審議会委員長、日本取締役協会会長、内閣府税制調査会特別委員、金融庁スチュワードシップ・コードおよびコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議委員、国土交通省インフラメンテナンス国民会議会長、内閣官房新しい資本主義実現会議有識者構成員など政府関連委員多数。東京大学法学部卒、スタンフォード大学経営学修士(MBA)、司法試験合格。『コーポレート・トランスフォーメーション 日本の会社をつくり変える』『コロナショック・サバイバル 日本経済復興計画』『なぜローカル経済から日本は甦るのか GとLの経済成長戦略』など著書多数。